イギリス労働党の「動物福祉マニフェスト」 伝統を恐れず切り込んでいくその画期的な内容
イギリスの野党第一党の労働党は新たに「動物福祉マニフェスト」(Animal Welfare Manifesto)を作成・発表しました。
イギリスはこれまでも動物福祉について世界的にリードしてきた国ですが、その政策をさらに大きく前進させるアイデアが込められています。
「トロフィー」輸入禁止
メディアでもっとも大きく注目されているのは「トロフィーハンティングで得た動物の輸入を禁止」というものです。
アフリカ諸国にハンターたちが訪れ、現地でお金を払って野生のライオンやキリン、トラ、ゾウなどを撃ち殺し、その頭部や毛皮を「トロフィー(戦利品)」として自国に持ち帰る、というのがトロフィーハンティングと呼ばれるものです。
生活上必要でもなく、または自分の身を守るためでもなく、単に「楽しみ」のために動物を殺害するという残酷な遊びであり、このために犠牲になる動物は後を絶ちません。
いわゆるトロフィーハンターたちは主にアメリカ合衆国の人が多いと言われていますが、もしイギリスがそれに対して批判的な政策を打ち出すことが出来れば、大いに意味のあることだと思います。
ペットの規制強化、毛皮・動物実験の禁止
ペットの在り方についても以下の項目が盛り込まれました。
・サルをペットとして所有することを禁ずる。
・子犬の密輸対策を行う。
・ネコへのマイクロチップ装着を義務付ける。
産業界で犠牲になっている動物たちについては:
・あらゆる種類の毛皮を禁止する。
・動物実験を全面的に禁止する(そのために1986年制定の「動物科学法」を見直す)。
フォアグラ、ロブスター、さらには競馬も
「フォアグラの輸入を禁止する」という食生活にかかわる部分もあります。
フォアグラはガチョウやアヒルに無理やりエサを与え、肝臓を肥大させ、その肝臓を食材とするもので、その残忍な飼育法は長年批判の対象となってきました。イギリスではすでに生産は禁止されていますが、輸入品の販売は今でも許可されています。
さらにロブスターにも動物の権利があるものと認め、生きたまま茹でることを禁ずるという、これまでにないスタンスも示されています。
酪農を含めた農業・漁業に関わる部分にもメスを入れています。
・2025年までにイギリスの農場での檻(おり)の使用を全面的に禁止する。
・電気パルス漁業(トロール網に電気を流して魚を捕る)を禁止する。
・ワナや捕獲用仕掛けの販売を禁ずる。
また、競馬のジョッキーがムチを使って競走馬を打つことを再検討する、というものも含まれています。
競馬の発祥地であるイギリスでこのアイデアが出されているわけで、「伝統」の名のもとにタブー視してしまうことのない姿勢は評価されるべきでしょう。
野生動物も「動物虐待禁止」の対象へ
動物虐待はこれまでも禁止されてきましたが、これはペットか家畜がその対象でした。
しかしこのマニフェストでは動物虐待禁止条項を野生動物にまで拡大して適用することを提案しています。
そしてこれらの福祉水準を維持するために、動物福祉コミッショナーを置く、ということも含まれています。
「実現不可能」という批判
政権与党の保守党は、象牙の売買については禁止しましたが、トロフィーハンティングによる動物の輸入については禁止していません。
その保守党は今回の労働党によるマニフェストを「実現できない空っぽの約束だ」と批判しています。
たしかに、これまで明らかに動物愛護・環境保護に後ろ向きなスタンスをとっていたジョンソン首相への対抗姿勢をあらわにしているように見えるところもあります。
このマニフェストには全部で50項目含まれており、理想的な内容もあるために実現が難しそうな部分もありそうです。
しかし現状をさらに一歩先へ進めようという姿勢は評価されるべきですし、これからも注目していく価値は十分にあると思います。