米アラスカ州 いったん禁止されたハンティング方法が再び可能に 3種類の「ハンティング」について考える

 

 

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BBCニュースは、米アラスカ州で禁じられていた「餌でクマをおびき寄せて殺すなどの狩猟方法の規制」をアメリカ政府が撤回する案を発表した、と報じています(クマをドーナツでおびきよせる狩猟法、禁止解除へ 米アラスカ - BBCニュース)。

 

アラスカではかつて、「お菓子などでクマをおびき寄せて殺す」「オオカミやその子供が巣の中に隠れいているところを襲って、殺害する」「泳いでいるカリブー(トナカイの一種)をモーターボートで追いかけて撃ち殺す」といったハンティングが許されていました。

 

しかし、やり方があまりにも残虐だということで、オバマ政権時代にアメリカ国立公園局によってこれらのハンティング方法が(一部を除いて)禁止されたのです。

 

しかしほぼ常にオバマ政権のやり方を否定してきたトランプ政権は、ほかの例にもれずこの禁止令についても解除することを決定し、ふたたび上記のようなハンティングがアラスカで可能になります。

 

2015年にアフリカでライオンのセシルが殺害されたのをきっかけにハンティングへの批判がこれまで以上に高まってきていますが、依然としてハンティングを楽しんでいる人たちは数多く存在します。

 

【目的別に分けると3種類】

一言に「ハンティング」といっても、その目的別に分類することができます。分類方法には複数あるようですが、通常は以下の3種類に分けることができます。

(※「Is hunting moral? A philosopher unpacks the question」を参照。)

 

一つは「セラピューティック・ハンティング」です。

 

これはある特定の動物を保護するために、その捕食者である別の動物を人の手によって殺すものです。

 

また、ある動物の生息数が増えすぎて地域全体のエコシステムに与える影響が大きすぎる場合に、その対策として殺すこともこのハンティングに含まれます。

 

俗に「まびき」と言われているものがこれに当たるでしょう。

 

「therapeutic」という言葉は「セラピーの」、すなわち「癒す力のある」といった意味になりますが、ここでいう癒しとは「バランスのいい状態に回復させること」と捉えると分かりやすいと思います。

 

1997年から2006年にかけての10年間、ガラパゴス諸島自然保護団体が数千頭の野生のヤギを殺害したことがありました。

 

これはヤギたちがガラパゴス諸島に生えている草を際限なく食べてしまい、島に生息しているガラパゴスゾウガメなどの食べるエサがなくなってしまうという事態が発生していたため、やむを得ず人の手による "調整" が行われたもので、セラピューティック・ハンティングの一例です。

 

二つ目は「サブシステンス・ハンティング」と呼ばれるものです。

 

「subsistence」とは「生存」または「生存に必要なもの」を意味します。

 

この生存は人の生存です。

 

人が生きるためにほかの動物を食べる、そのために動物を捕まえて殺す、という行為がこのサブシステンス・ハンティングです。

 

人が生き延びるために、おそらくもっとも歴史が長く、もっとも広範囲にわたって、(ある意味やむを得ず)続けられてきたのがこの種のハンティングと考えていいでしょう。

 

最後は「スポーツ・ハンティング」と呼ばれるものです。

 

これは単に楽しみのためのアクティビティとして動物たちを殺すものです。

 

動物たちに銃口を向けて、銃弾を命中させて殺すことを「楽しい」と思う人たちのやるものです。

 

このブログでこれまで紹介してきた「トロフィー・ハンティング」(殺害した動物の頭部などを “勝利者のトロフィー” のようにして持ち帰るもの)や「カンド・ハンティング」(動物たちを檻や策の中に囲い込み(= カン詰め状態にして)、外から狙って撃ち殺すもの)などはこの「スポーツ・ハンティング」に分類されます。

 

楽しみのためであれば動物の命などは犠牲にしても構わない、というまったく筋の通らないことがこの種のハンティングの前提になっています。

 

【楽しみのために動物を殺す】

今回アラスカ州で禁止令が解除されるハンティングは、果たしてこれら3種類のどの目的に該当するのでしょうか?

 

アラスカ州では、クマやオオカミなどの肉食動物はシカやカリブーなどの草食動物を襲って食べてしまうため、これら肉食動物の数を抑えるためにハンティングが必要である、したがってドーナツでクマをおびき寄せて殺害する方法も合法であるべき、という趣旨の主張をしています。

 

ここまでの話であれば、アラスカ州で行われるハンティングは草食動物たちを守るための「セラピューティック・ハンティング」に該当するように見えます。

 

しかしBBCの記事にはこう書かれています。

アラスカ州の当局者は、クマやオオカミなど捕食動物を狩るのは、ヘラジカやカリブーなど被食動物のスポーツハンティングを可能にするため、必要な措置だと語っている。 

 

つまり、肉食動物の数を抑えることでシカやカリブーなどの生息数を維持し、これら草食動物をターゲットとした「スポーツハンティング」を可能にする、というのがその本旨なのです。

 

そして、このスポーツ・ハンティングを後押しするために、トランプ政権はせっかくの禁止令を解除してしまうのです。

 

アラスカ州のポリシーを批判するには、スポーツ・ハンティングがアラスカ州の経済にどのように関わっているのか、またアラスカの大自然で暮らしている人たちにとって「人 vs. 動物」の関係がどのような意味を持つのか、ということまで考える必要があるため、安易に断罪するべきではないかも知れません。

 

しかし「楽しみのために動物を殺すという行為」がモラルに反するものだ、ということは、世界のどこにいても共有されるべき価値観だと思います。