スマトラ・オランウータンの生息数が「倍増」?
スマトラ島に生息するオランウータンは生息数が減少しており、絶滅危惧種に指定されています。
このたびイギリスの大学の研究チームが、スマトラ・オランウータンの生息状況についてあらためて調査したところ、全世界での生息数は14,600頭という見積もりが発表されました。
これは2008年に同じ研究グループが行った調査の結果である6,600頭からの大幅な上方修正になります。
この新しい推定生息数によれば、スマトラ・オランウータンが近い将来絶滅してしまう可能性は(少なくとも従来よりは)低くなったと考えられます。
【なぜ生息数が「増加」した?】
しかし調査を行った専門家は、これは決して生息数が増えてきていることを示すものではない、と述べています。
今回の上方修正は、今までオランウータンが生息していないと考えられていた場所をあらためて詳しい調査対象とした結果であるからです。
従来は海抜900mよりも上にはオランウータンは生息していない、と考えられていました。
しかし今回、スマトラ島の海抜1,500mの場所でもオランウータンの生息が確認されたのです。
今回の上方修正は、この新たな生息場所の発見の結果でした。
今回の発表は、当然のことながら良いニュースとして受け止められています。
生息数が多ければ、それだけオランウータンの生息地保護対策を実行するために使える時間も長めに見積もることができるからです。
しかし調査を担当した専門家は、「新しく生息数が見直されても、オランウータンの絶滅危惧種という位置づけを変えることはないであろう」と述べています。
「たとえ頭数が上方修正されても、生息場所である森林の状況を見る限り、オランウータンが絶滅の危機に瀕していることに変わりありません」。
研究者たちの推計によると、森林伐採の影響により2030年までにオランウータンの生息数は今より4,500頭も減少すると見積もられています。
【実際は「別の種類」の発見と考えるべき】
また、単にスマトラ・オランウータンというひとまとまりの種として保護すればいい、と言う単純な話でもないのです。
「すべてのスマトラ・オランウータンが同じと言うわけではありません。チンパンジーなどほかの類人猿も同様ですが、生息する地域ごとにその生活スタイルに違いがあります。異なる発声でコミュニケーションをし、異なる道具を使い、異なる行動様式を持つ、いわばそれぞれが異なる文化を形成しているのです」。
高地に生息するオランウータンは、今まで知られていた低地で暮らしているオランウータンとは異なる食生活をしており、また使う道具も異なっていることが分かっています。
つまり動物分類学上は同じ「スマトラ・オランウータン」であっても、従来から生息が確認されていた種類と、今回発見された高地に生息する種類とでは、事実上は別々の「文化」を有している別々の「種類」であると見なすのが妥当、ということになります。
そうであれば「生息数が増えた」と考えるより、「絶滅が危惧される種類が新たに発見された」と考えるほうが、実際の状況をより的確に捉えていることになるでしょう。
【森林伐採規制が急務】
研究者は、インドネシア政府が森林伐採禁止を法規制で取り締まることが急務だと語っています。
とくに違法な森林伐採は道路の周辺から行われていることが多いため、オランウータンの生息地に入り込んでしまう道路の建設などは取締りを強化されるべきことです。
(Sumatran orangutan numbers double but fires destroy habitat)