ボルネオ島のオランウータン 1歳半の赤ちゃんまでもが巻き込まれる現状に改善の兆しは見えず
ディディックは生後18ヶ月のオスのオランウータンです。
インドネシアのボルネオ島にある地元のお店の外で、衰弱して倒れているところを発見されました。
そのとき、ディディックの肩には銃弾の弾が食い込んでいました。
動物救護団体「インターナショナル・アニマル・レスキュー(IAR)」がディディックを保護し、オランウータン保護施設に救急搬送。
ひどい栄養失調をわずらっていたため、専門家チームが数週間かけてディディックの治療を行い、体力の回復を確認後、手術を行いました。
弾丸が皮膚のすぐ下にあったため、除去手術が比較的やりやすかったことは不幸中の幸いでした。
現在ディディックは順調に回復しており、間もなく同じ施設にいる他のオランウータンたちといっしょに暮らせるようになると救護センターでは見込んでいます。
オランウータンの母親は子供につきっきりで面倒をみる習性があります。
野生のオランウータンは、7~8歳になるまで母親といっしょに暮らし続けるのがふつうです。
この長さは、哺乳動物の中では人を除いて最長であるといわれています。
つまり、生後18ヶ月の子供だけを置き去りにして母親だけがどこかへ遊びに行ってしまうなどということは、自然では考えられないことです。
ディディックが1頭で放って置かれていたということは、その母親は死亡していると考えられます。
ディディックの肩に弾丸が残っていた事実とあわせて考えると、お母さんは撃ち殺され、流れ弾にあいながらも生き残ったディディックがそのまま捨てられた、という可能性が高いと見られています。
ディディックの身体はどんどん回復していますが、その一方でまわりの物事に興味を示そうとせず、気分が落ち込んだ状態が続いているそうです。
救助したIARの担当者によると「オランウータンのように知能の発達した動物が、目の前でお母さんを殺されるという経験をすれば、それがトラウマとして残ってしまう」ということです。
ディディックのうつ状態も、明らかに母親殺害を目撃したショックが原因だと考えられます。
この心的外傷から回復するまでにはしばらく時間がかかるだろう、と担当者は語っています。
それでも「ディディックが完全に回復して野生の森の中に戻れる可能性については、私たちは前向きに考えている」とも述べています。
人の手によって飼育されているオランウータンたちが森に復帰するには、野生のオランウータンたちの持つ習性を身に付けていく必要があり、これにも時間がかかるといわれています。
しかし最大の障害は、オランウータンが安心して暮らせる森林がどんどん減っているということなのです。
ボルネオ島では工業用地の開拓やパームオイル用のアブラヤシ植林のため、大規模な森林破壊が行われてきました。
1970年代以降、ボルネオ島の熱帯雨林は40%も減少しています。
さらに2015年には大規模な森林火災が起こりました。
それまで安心して暮らしていた森林がなくなり、寝るところも食べるものもなくなってしまったオランウータンたちは、現地の人たちが暮らす民家や農家の畑などに現れてしまいます。
彼らにとってオランウータンは生活を脅かす「害獣」であるため、容赦なくライフルで射殺する、という状況が多く発生しているのです。
ディディックの身に起こったことの詳細は不明ですが、おそらく似たような事象に見舞われたものと考えられます。
ボルネオ・オランウータンは、IUCNの絶滅危惧種レッド・リストでは絶滅種の1歩手前である「絶滅寸前」(Critically Endangered)に指定されています。
現在ボルネオ・オランウータンの生息数は、正確には把握されていないのが実情です。
しかし1973年の288,500頭から、現在はわずか100,000頭にまで減少しているという専門家の推定も発表されています。
さらには、ボルネオ島だけで毎年2千~3千頭のオランウータンが殺害されているという調査結果も出ているのです。