親を奪われた子供オランウータンの森林復帰訓練を行う「オランウータン学校」

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オランウータンの生息数は過去20年ほどの間に大きく減少しています。

 

とくにマレーシア東部の低地で暮らすオランウータン生息数は、2002年から2017年の間に30%も減っているのです。

 

【お母さんを奪われた子供たち】

たとえばボルネオオランウータンの場合、生息地であるインドネシア熱帯雨林で農地開拓、鉱山開発、人間の住宅地拡大などのために伐採が続けられてきたため、熱帯雨林を生息地とするオランウータンが追いやられてしまう、というのが根本的な原因です。

 

今まで自分たちが暮らしていたところに人間が現れるようになったため、そこで人 vs. オランウータンの衝突が起きてしまいます。

 

農業を営む人たちにとってはオランウータンは畑地を荒らす「害獣」になってしまうため、容赦なく殺してしまうという事態が後を絶ちません。

 

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さらにオランウータンの肉を食肉として販売したり、生きたまま違法ペットとして販売したり、曲芸をやらせる動物として捕まえたりする事例も頻発しています。

 

そしてもう一つ大きな問題は、犠牲になるオランウータンたちには子供がいる場合もあるということです。まだ親の手が必要な、幼年期の子供たちです。

 

目の前でお母さんが殺されたり連れていかれたりした後、子供が1頭だけで森の中に残されてしまうという状況も珍しくありません。

 

 

 

【オランウータン学校】

こんな中、現地でオランウータンの保護活動を行っている団体は複数あります。

 

たとえば「ボルネオオランウータン・サバイバル・ファンデーション」という団体では、生息地の保護のみならず親から引き離された子供のオランウータンの育成も行っています。

 

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この育成活動の中に「オランウータン学校」というものも含まれています。 これは現地の人にオラウータンについて教える活動ではありません。 オランウータンを教育する学校なのです。

 

保護された子供のオランウータンが人の手で育てられてしまうと人といっしょに生活することを覚えてしまい、野生で暮らしていくという本来の能力が育たないまま大人になってしまいます。

 

これでは本来いるべき熱帯雨林に戻ることはできないため、この学校で野生に戻っても問題なく生きていけるよう訓練していくのです。

 

保護団体ではこれまでも野生のオランウータンの調査を続けており、実際の野生の生活ではどんなスキルが必要になるかを見極めてきました。

 

学校ではオランウータンの子供たちを年齢別に「クラス分け」してゆき、さまざまなスキルを学んでもらいます。

 

とくに重要なのは自然から食べられるものを探し出す能力です。

 

地面に倒れている大木からどうやってシロアリを取り出して食べるか、ヤシの木の皮を歯を使ってむくにはどうやればいいか。 中には、食べ物を見つけ出すのに時間の半分を使ってしまうほど大変な作業もあります。

 

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そのほかの「授業」では樹木に上って森林の中を移動したり、寝床をつくったり、熱帯雨林に存在する危険や天敵を発見したりする方法を教えています。また、まわりのオランウータンと交流し将来のパートナーを見つけ出す方法なども「教科」に含まれているそうです。

 

こうしたすべての勉強を終えたオランウータンは、遮断された複合施設に入れられ、そこで健康診断を受け、森に戻る準備をしていきます。

 

この複合施設を出ても、すぐに野生へ送り出されるわけではありません。 インドネシアには1万を超える数の島があり、その中のいくつかがオランウータンの「実技試験」の場所として使われています。

  

そこで最終的なテストを経て、ボルネオ島熱帯雨林に行くことが出来るようになります。

 

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【人に親を奪われた子供たちを助けるのは人の役割】

オランウータンは哺乳動物の中でも出産から次の妊娠までの期間が最も長い動物です。

 

これは子供が母親から離れて独り立ち出来るまでにかかる時間が長い(約8年間)ことを意味します。

 

同時に、それくらい長い時間をかけなければいけないほどお母さんから学ぶことが多い、ということでもあるのです。

 

この学校で学んでいるオランウータンたちはみんな母親を奪われた子供ばかりであり、こういう状態に追いやったのは現地で違法行為をはたらく人間たちです。

 

しかしその一方で、子供たちがまた野生に帰れるよう身を粉にして働いている保護団体の職員たちも、やはり現地の人間たちなのです。

 

その彼らの努力に敬意を表したいと思います。

 

 

 

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