干ばつに苦しむナミビア共和国 野生動物保護のために野生動物1,000頭を売却?
アフリカ大陸の南西部にあるナミビア共和国は今年、大規模な干ばつに襲われています。
この干ばつに対処するため、ナミビア政府は約1,000頭にも及ぶ野生動物の「販売」を許可しました。 対象となる野生動物の中にはゾウやキリンなどの絶滅危惧種も含まれています。
ここで「販売」といっているのは、野生動物を捕まえてふつうの商品として販売するという意味ではありません。「game species」(狩猟用の動物)という表現が使われていますので、おそらくトロフィーハンティングなどを許可してその収益を得る、ということだと考えられます。
ナミビア政府はこれにより110万米ドルの収入を見込んでいます。
【収益は野生動物保護に】
この収益は野生動物の保護活動に使われるということです。
- 野生動物を手放すことによって、そこから得られた収益を野生動物保護に充当する。
- 干ばつのせいで動物たちのエサとなる草がどんどんと枯れていく中、保護区に生息する動物たちを一定数減らすことでエサの確保を見込む。
というものです。
対象となる動物保護区は複数にわたり、また許可する動物の種類も複数に及ぶとのことで、おそらく特定の保護区だけが荒らされたり特定の動物だけが減ってしまうということがないように、との配慮なのでしょう。
見込まれる110万米ドルの収入は、政府が運営するファンドで管理されることになっています。
ファンドはトロフィーハンティングなどの収益を管理する専用のもので、野生動物の保護や保護区域の管理に充てられる、とされています。
【90年ぶりの規模の干ばつ】
ナミビアは5月に非常事態レベルの干ばつであると宣言しました。
ナミビアの人口は240万人。 そのうちの50万人に干ばつの被害が及んでおり、政府も食料や水の補給のための保護活動を始めています。
一部の地域では死者が出る可能性もあり、90年ぶりの規模になるという見込みも出ています。
野生動物保護区域内の草木は次々と枯れていっており、このままではトロフィーハンティングを許可しなくても動物たちが死に絶えてしまうだろう、と言われています。
2019年4月にナミビアの農業省が発表したレポートによると、この国では2018年にも乾燥した天候が続き、それが原因で63,700頭の動物が死亡しました。
【不安・疑問の多い方法】
当然、トロフィーハンティングなど楽しみのために動物を殺すことは許されるべきではありません。
一方で今回の政策は、一応現地に暮らす野生動物全体の保護のために行われる、というのがその動機となっています。 国全体が人命にかかわる緊急事態に直面している中での動物保護対策としては、ある意味やむを得ない部分もあるかもしれません。
しかし心配な点もあります。
今回、ナミビア政府が発表した野生動物1,000頭の中にはバッファロー600頭、スプリングボック150頭、オリックス 65頭、ゾウ28頭などがふくまれています。
一方で、現在ナミビアの保護区域に生息しているバッファローは960頭、スプリングボック2,000頭、オリックス780頭、ゾウ6,400頭など、必ずしも「減らしても問題はない」と言えるほどの生息数ではないようです。
※ゾウは6,400頭中28頭と小さい割合ですが、絶滅危惧種です。
干ばつは乗り切ったとしても、減らしてしまった動物たちの生息数が回復するのか、大いに心配です。
また、トロフィーハンティングなどで得られた収益が本来ならば受け取るはずではない人たちの懐に入ってしまうという事態も、(ナミビアとは特定されていませんが)アフリカ諸国で起こっているようです。
今回のナミビア政府のやり方にはこうした疑問や不安があり、もろ手を挙げて大賛成と言える方法ではありません。
しかし、野生動物たちのために身を粉にして活動している人たちも数多くいるので、そうした人たちの努力は応援したいと思っています。