死因が特定された「クヌート」 世界中で愛されたドイツのホッキョクグマについて
ドイツのベルリン動物園で暮らしていたホッキョクグマの「クヌート」は、その愛らしい容貌で世界中から愛された存在でした。
残念ながら2011年3月、池に落ちて溺死しましたが、その死因がはっきり分からなかったため「謎の死」として方々で取り上げられていました。
しかし、このたびその死因がようやく科学的に解明されました。
2015年8月に行われた発表によると、クヌートの死因は「抗NMDA受容体抗体脳炎」という急性脳炎であった、ということです。
これは、今まで人間にしか発生しない(すくなくとも発生が確認されなかった)病気であったため、その点でも注目された発表でした。
【クヌートの生い立ち】
クヌートは2006年12月にベルリン動物公園で生まれましたが、母親は育児にまったく興味を示さず、生後すぐにクヌートを檻の中にある岩の上に置き去りにしてしまいました。
まだモルモットほどの大きさだったクヌートは、動物園の飼育係に育てられることになったのです。
クヌートの飼育を担当したのはトーマス・デルフライン氏でした。 当時のクヌートは24時間付きっ切りの世話が必要でした。
デルフライン氏は、寝るときはクヌートの横にマットレスを敷いて眠り、いっしょに遊び、いっしょにお風呂に入り、いっしょにご飯を食べるという、まさに共同生活を営んで育てました。
とくに赤ん坊の頃は2時間ごとにえさを与える必要がありましたが、デルフライン氏のおかげでクヌートはすくすくと育ってゆき、2008年の初め頃には体重も130kgに及んでいたといわれています。
デルフライン氏は2008年9月に亡くなりましたが、その後もクヌートはベルリン動物園の人気者となり、世界にその人気は広がってゆきました。
【人気者クヌート】
クヌートの人気のおかげでベルリン動物園の来場者数は大きく増加し、クヌートはこの動物園の商標として登録されました。
ベルリン動物園の株価も2倍に上昇、来場者数は30%の伸びをみせ、160年を越す歴史上最大の売上を記録したことも発表されました。
2007年にはアメリカの出版社がベルリン動物園と提携して、地球温暖化問題の意識向上のための出版物にクヌートを登場させることにしました。
『Knut: How one little polar bear captivated the world』と題された本は『クヌート ちいさなシロクマ』として日本でも出版されました。
同じく2007年にはハリウッド映画も企画され、翌2008年には『クヌート(Knut and His Friends)』が製作・公開されています。
また雑誌『Vanity Fair』2007年5月号の表紙には、レオナルド・ディカプリオとともに登場したことがありました。
【クヌートの死】
こんな大人気のクヌートでしたが、2011年3月19日、岩の上を歩いていたところ突然一箇所にとどまってクルクルと一方向に回り始めました。
その回転する動作を終えるとすぐに全身がけいれんし始め、そのまま横にある池に落ちてしまいました。
クヌートがその池から上がってくることはなく、溺死が確認されました。
その現場は600~700人の人が見ていたという情報も残っています。
その時点で脳に何かの発作が起こり意識を失って池に転落した、ということは分かっていましたが、その脳の発作の原因はなかなか判明しませんでした。
そして上記のとおり、4年半の月日を経て、ようやくその死因が特定されたのです。
【クヌートの思い出】
2012年10月、クヌートの記念碑がベルリン動物園内に建てられました。
また2013年2月には、クヌートの剥製がベルリン自然歴史博物館に展示され、今でも来場者の目を楽しませています。
クヌートが死亡したのが東日本大震災から1週間ほどたったばかりのことであったことから、日本ではその死は大きく報道されることがないままでした。
決して長くはない生涯でしたが、その存在感は今でも多くの人の心に残っており、今回の死因特定のニュースも欧米では大きく取り上げられています。