野生では絶滅したヨーロッパバイソン 生息数は回復しつつも密猟は未だに続く
2020年の初め、ルーマニアにあるチャルク山脈の村で、まだ子供のバイソンが身動きできずにいるところを発見されました。
密猟者の残していったワイヤー製のワナに引っかかってしまっていたのです。
その子の母親は近くで他のバイソンたちと一緒に逃げずに見守っていました。
森林監視員からの連絡を受け駆けつけた獣医師がバイソンを麻酔銃で眠らせ、ワナを取り外すことができました。
若々しい動物の持っている回復力のおかげで、この子供バイソンは数時間後には母親のもとに帰り、自然の生活に戻っていったそうです。
バイソン育成活動のたまもの
この地区では森林監視員が見守りを続けており、バイソンをターゲットにした密猟者を取り締まっています。
この子供バイソンが発見されたときもすぐに警察に通報され、地元の環境管理当局や狩猟組合などにも連絡されました。
森林に帰す前に血液サンプルを採取し、近くの自然博物館でDNAテストを行った結果、その両親を特定することができました。
この子供のバイソンはまだ1歳未満。 この地域で行われているバイソンの育成活動「Life-Bison Project」によって今まで大人のバイソンが野生に放たれてきましたが、そのバイソンたちから生まれた子供だったことが分かりました。
バイソンの生息数復活の地道な活動が実を結んでいることの証でした。
事実上絶滅したヨーロッパバイソン
バイソンには複数種ありますが、大きく分けると「アメリカバイソン」と「ヨーロッパバイソン」に分けられます。
ルーマニアに生息するのはヨーロッパバイソンですが、かつてはヨーロッパ全土に数多く生息していました。
しかし密猟と生息地の減少が原因で、20世紀初頭には絶滅直前にまで追い込まれています。
「絶滅直前」といっても、野生に暮らすヨーロッパバイソンは1920年代にオランダで目撃されたのが最後であり、事実上野生のバイソンは絶滅したと考えられています。
動物園や私有地で人の手により飼育されているバイソンだけが生き残っており、その数はわずか60頭未満でした。
その後、生き残ったバイソンを使いヨーロッパ各国で繁殖活動が行われるようになりました。
1950年代にはポーランドで繁殖に成功し、また西ヨーロッパでもいくつか成功した例がありました。
2010年代に入り、今度は繁殖させたバイソンを野生に放ち、もう一度バイソンを自然に帰すという活動が行われ始めました。
上記のルーマニアもその一例です。
生息数は回復しつつも今でも続く密猟
現在確認されているヨーロッパバイソンの生息数は7,000頭ほどです。
約100年前の60頭に比べるとはるかに改善しましたが、それでも絶滅危惧種であることに変わりはありません。
ヨーロッパではほかにもスペインやフランス、ドイツがバイソンの生息数回復に成功しており、これらのノウハウがスウェーデン、スイス、イギリスの各国と共有されていますので、今後もより多くの国でバイソン繁殖が行われるでしょう。
こうして人の手で少しずつその生息数が増やされている一方、いまだに密猟が横行しており、その生息数を減らしてしまう人もいることも事実です。
ルーマニアでワナにかかって発見された子供のバイソンは、運よく母親のところに戻ることができました。
しかしワナを仕掛けた密猟者については、通報を受けた地元警察が今でも捜査を続けているということです。
・The Remarkable Story of How the Bison Returned to Europe – Cool Green Science