オオカミ 絶滅危惧種指定の解除へ向けて動き始めるアメリカ その動きに強い反対の声も

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オオカミは現在、アメリカ合衆国絶滅危惧種の指定を受け、保護対象になっています。

 

しかし2019年3月の始め、ハワイとアラスカをのぞく全米48州で、この絶滅危惧種の指定を解除する方向で動き始めました。 合衆国本土でオオカミたちの生息数が増加したことがその理由です。

 

この話は必ずしも良いニュースとして歓迎されたわけではありませんでした。 環境保護・動物保護を訴えている人たちや動物学・生物学の専門家たちは、必ずしもオオカミの生息数が十分に増加しているわけではないので、これまで通りの保護を続ける必要があると訴えているのです。

 

 

 

【過去40年間で5倍に増加】

オオカミは1975年にアメリカで絶滅危惧種の指定を受け、保護対象になりました。 その当時の生息数は48州で約1,000頭ほどまで減少していました。

 

その後、とくに西部を中心とした幅広い地域へオオカミたちを放すことで生息数は増加していき、現在は約5,000頭にまで増えています。

 

アメリカ合衆国魚類野生生物局では、このオオカミの生息数回復はアメリカの動物保護政策最大の成功のひとつであると自負を隠しません。

 

オオカミの指定解除については、すでにオバマ政権下の2013年にも提案されたことがありました。 しかし連邦裁判所がこの方針を却下したため、それ以上の動きはありませんでした。

 

現時点では、オオカミの絶滅危惧種指定の解除は正式なものではない、とされています。 いったん正式な方針として公表された後も、一般からのコメントを受け入れる期間が設けられるようです。

 

 

 

【駆除から生息数回復まで】

オオカミはかつて「害獣」」とみなされていたため、全米で「オオカミ駆除」が行われていました。

 

駆除は賞金を設けて狩猟を奨励する、ワナを設置して生け捕りにするといった方法が用いられていた一方、もっとエスカレートした方法も行われていました。

 

子供が成育している巣穴の中にダイナマイトを投げ込み、穴倉を爆破して殺害する方法や、細菌やウィルスなどの「生物兵器」をワナのエサに含んで食べさせるなどといった方法など、残酷極まりない手段が使われていたことも分かっています。

 

オオカミが絶滅危惧種の指定を受けたときは、アメリカ国内の生息地域はミネソタ州の北部だけになっていました。

 

その後1990年代半ばになって、アイダホ州にあるイエローストーン国立公園にオオカミが移入されると、そこで生息数が増加していきました。

 

それがユタ州オレゴン州など周辺の州にどんどんと生息地を広げてゆくことになります。

 

 

 

【酪農業は保護指定解除を歓迎】

しかし生息数が増えるにしたがって、牧場主たちの悩みが大きくなっていきました。 オオカミが牧場に現れ大切な家畜たちを襲ってしまうため、大きな損害を被る酪農家も少なくなかったのです。

 

家畜たちを飼育して生計を立てている酪農家の人たちが、被害の原因であるオオカミを害獣と見なすのも無理のないことです。

 

そのため、全米肉牛生産者協会は今回の指定解除の動きを歓迎しています。

 

畜産業者の主張としては、オオカミは繁殖力が高い動物なので、無暗に保護対象にするとコントロールが効かなくなるまで増えてしまう、よって狩猟やワナでの捕獲して生息数をコントロールするべきである、ということなのです。

 

【それでもオオカミ保護を続ける理由】

一方で、農家によってはメリットもあることを、動物保護団体は訴えています。

 

オオカミが増えると、その獲物であるエルク(シカの一種)など野生の草食動物の頭数が自然と抑えられていきます。そのおかげで草食動物たちが畑の作物を食い荒らす事例に歯止めがかかっているのです。

 

しかし(酪農家を含む)農家にとってのメリット・デメリットの前に、もっと大きな問題があります。

 

全米各地で野生のオオカミの生息が確認されていることは事実ですが、必ずしもその生息が安定しているとまでは言えない場所も複数あるのです。

 

ニューヨーク州のアディロンダック山地、メイン州、ロッキー山脈の一部などでは、まだオオカミが定住しているとは言えない状態です。

 

そうした地域では、現時点で保護対象から外してしまうと、オオカミの生息地として将来も安定し続けるという望みはないと見られています。

 

単に生息数が増加するということ、生息地域が十分に広がるということとは、決して同じ問題ではありません。生息地域の確保ができるまでは、絶滅危惧種の指定解除は早すぎると言わざるを得ないのです。

 

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