バイソンは「生態系のエンジニア」 イギリスの自然に「再導入」で生物多様性の回復に貢献へ

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2020年現在、イギリスには野生のバイソンは生息していません。

 

しかし今から数千年前までは、バイソンがイギリス国内で群れをなして暮らしていたと言われています。

 

そんなバイソンですが、2022年の春、イギリス国内の自然保護区に「再導入」されることになりました。

 

オス1頭とメス3頭の合計4頭のヨーロッパバイソンがオランダやポーランドからイギリスに運び込まれます。

 

バイソンが放たれる場所はイギリス南東部のブリーン・ウッズ(Blean Woods)と呼ばれる自然保護区域です。

 

彼らが定住すれば、毎年メス1頭につき1頭の子供を産んでくれることが見込まれています。

 

 

 

「生態系のエンジニア」

今回新たにバイソンが自然に放たれるのは、この動物がイギリスに定住・繁殖してくれることだけを目的としたものではありません。

 

このプロジェクトの本来の目的は、失われた生物多様性がバイソンによって復元されることで、最終的にはさまざまな動植物の生息地が形成されることが期待されているからです。

 

バイソンは生態学者によって「生態系のエンジニア」と呼ばれています。

 

例えば、ビーバーが暮らすとそこにはダムが作られるため、周辺の水流が整えられていきます。

 

同様に、バイソンが生息することで、その周りの自然環境の形成が手助けされるのです。

 

バイソンは大型草食動物で、草をむしゃむしゃ食べていきます。

 

しかしそれだけでなく、その巨体で小さな木々をなぎ倒していくことで森林にかなりの広さがある空間を自然に作り上げてくれます。

 

バイソンが森林の中に作った日光のあたる場所には、数多くの種類の植物や動物が茂る土地が展開していくようになります。

 

例えば、ママコナという花はこうした土地で生息する植物です。

 

またヒョウモンチョウと呼ばれるチョウは、生きていくためにこのママコナなどの植物を必要とします。

 

このチョウはイギリスではその生息数が激減しているため、ママコナの繁殖はヒョウモンチョウの繁殖にも役立つという好循環が期待できるのです。

 

このように、バイソンが森林の中に作り上げる空間のおかげで、新たな生態系が形成されるようになるのです。

 

6,000年ぶりのバイソン

野生のバイソンは、約6,000年前まで古代イギリスの田園地帯を歩き回っていた、といわれています。また最後の氷河期が終わった後で、今から約1万年から1万1千年前に絶滅した、という説もあります。

 

バイソンは大きく分けて「アメリカバイソン」と「ヨーロッパバイソン」に分かれますが、今回イギリスに放たれる予定のヨーロッパバイソンは古代に絶滅した種類に最も近いと見られています。

 

第一次世界大戦終結後、(イギリスのみならず)ヨーロッパのバイソンは狩猟や生息地の破壊によって、野生ではほぼ根絶されていました。

 

約100年以上前にわずか12頭が生き残っていましたが、それが野生の最後のヨーロッパバイソンでした。

 

現在人間の手で飼育されているバイソンは約5,000頭ほど生息していますが、やはり少数であることに違いありません。

 

一部では、ヨーロッパバイソンはイギリス本土には生息していなかった可能性も指摘されており、もしそうであれば今回の再導入は厳密な意味では「新規導入」になってしまう可能性もあるそうです。

 

しかし、たとえ在来種でなかったとしても、イギリスにヨーロッパバイソンの群れが新しく生息することで、現在の生態系に欠けている重要な役割を果たしてくれることは間違いありません。

 

同時に、絶滅の危機に瀕しているヨーロッパバイソンの生存の可能性を高めてくれるという別の期待もあるのです。

 

 

 

www.smithsonianmag.com