ユキヒョウが「絶滅危惧種ではなくなった」というのは本当?
長きにわたって絶滅危惧種に指定されてきた「ユキヒョウ」について、最近「絶滅の恐れがなくなった」という話が一部で流れているそうですが、これは本当なのでしょうか?
【危険度が一段階低くなった】
残念ながらユキヒョウは絶滅危惧種でなくなったわけではありません。
国際自然保護連合(IUCN)がまとめている保全状況(レッドリスト)では、絶滅危惧種が3段階に分けられています。
「絶滅危惧IA類(Critically Endangered, CR)」「絶滅危惧IB類(Endangered, EN)」「絶滅危惧Ⅱ類(Vulnerable, VU)」の順に危険度が低くなりますが、今までユキヒョウは2番目の「絶滅危惧IB類(EN)」であったのが、一段階下がって「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」のステータスに変更されました。
(※レッドリストのカテゴリーについては「IUCN日本委員会」のサイトを参照)
危険度が低くなったわけですから、そのこと自体は歓迎すべきことだといえるでしょう。
しかし依然として密猟と生息地域の減少という深刻な危機に直面していることに変わりはない、と専門家たちは指摘しています。
【今でも続く絶滅危惧の状態】
今回のレッドリスト上の評価更新は、世界的な5人の専門家たちにより3年間にわたった行われた調査の結果行われたものです。
そのうちの一人トム・マッカーシー博士は、「Panthera」というチャリティ団体でユキヒョウ保護プログラムを運営している専門家です。
マッカーシー博士はこう語っています:
「「絶滅危惧IB類(EN)」に指定されきたということは、ユキヒョウの生息数が2,500頭未満であり、かつ高い減少率であったということです。 この2点について、現在のユキヒョウに当てはまることはまずないと考えられます」
「これは良いニュースです。 しかしだからといって、ユキヒョウたちが安全であるとか、もろ手を挙げて喜んでいいということではないのです。 今でも、野生のユキヒョウが絶滅する危険性は高いままです。 生息数の減少率も、以前考えられていたほど高くはないというだけで、今でも数は減り続けているのです」。
絶滅危惧IB類(EN)から絶滅危惧Ⅱ類(VU)に評価が変更されたということは、1万頭未満の生息数が見込まれ、減少率10%という状態が少なくとも過去3世代にわたって続いている、ということを意味するそうです。
【どうして生息数の減少率が抑えられたのか】
一方ユキヒョウ保護のための基金を運営している「The Snow Leopard Trust」は、今回のIUCNの評価更新に強く反対しており、抗議することも考えているようです。
「この決定がユキヒョウにとって重大な結果を招く可能性があると考えています」。
ユキヒョウの研究家たちは、生息数の減少率が改善されたのは保護活動の結果であるとしています。
保護活動の主なものとしては、野生のユキヒョウが地元の酪農家の保有している家畜を襲わないようにするなどの対策があります。
ユキヒョウに家畜を襲われた酪農家たちは、その「復讐」としてユキヒョウを撃ち殺してしまうという行動に出ることがあり、これが大きな問題のひとつとされています。
また生息地域内に設けられる保護区もここ数十年の間に広がっており、これも効果をあげていると見られています。
【絶滅の危機に瀕して半世紀】
ユキヒョウがIUCNによって初めて絶滅危惧種に指定されたのは1972年でした。
つまり過去45年間にわたって絶滅の危機にさらされ続け、いまだにその状況から脱していないことになります。
日本では、最近も多摩動物公園(東京)で赤ちゃんが産まれるなど、比較的よく知られている動物のひとつのようです。
つい私たちは赤ちゃんヒョウの可愛さや毛皮の美しさにばかり目が行ってしまいがちですが、すでに半世紀にわたってこの動物が大きな問題に直面してきたということを、少しでも知っておきたいと思います。