イギリスで続けられてきたアナグマの駆除が終了へ 今後はワクチン接種で疫病の拡散阻止
イギリスでは7年前から政府主導の政策として野生のアナグマの駆除(間引き)が行われてきました。
しかしこのたび、この駆除政策が徐々に減らされていく方針に転換していくことが分かりました。
駆除の代わりにワクチン接種が用いられる予定です。
「牛結核」という疫病に悩まされてきた酪農家たち
アナグマが駆除されてきたのは、酪農の家畜たちの間で流行している結核(牛結核)が理由でした。
家畜の間でこの感染症が拡散してしまうのはアナグマがその媒体になっていること原因である、と指摘されたのです。
酪農家の人たちは、牛結核が流行したせいで大事な家畜たちが病気になってしまうという問題に悩まされてきました。
牛結核の感染が原因で年に3万頭を超える数の家畜たちが殺処分されてきており、酪農業にとっては死活問題だったのです。
イギリス政府は酪農業界を守るため2013年からアナグマの駆除政策を始め、年間1億5,000万ポンドの資金が投入されてきました。
この政策により、これまでに10万頭以上のアナグマが殺処分されています。
ワクチン接種で牛結核の拡大阻止へ
しかし「Animal and Plant Health Agency」(動植物保健機関)が最近発表した研究結果によりますと、ワクチンの接種が牛結核の拡大を止めるのに効果があるということが判明しました。
ほかにも、政府の牛結核対策に関する第三者レビューが行われ、この疫病はアナグマから家畜に感染するよりも家畜同士の間で感染がより広がっているという調査結果が出されたことも、アナグマの駆除政策を見直すことにつながりました。
イギリスの環境大臣も、アナグマを殺し続けることはしたくないと述べ、それに代わるこのワクチン接種という方法を積極的に取り入れる意向を明らかにしました。
もちろん、これからワクチンの試用を始めるわけであり、イギリス政府の計画では今後5年間をかけて少しずつワクチンの普及を進めていくということになっています。
イギリス政府は2038年までにこの牛結核の完全な撲滅を目指しているということですから、まだ先は長いと言えるでしょう。
イギリスでは専用の法律で保護動物に指定されているアナグマ
しかしながら、これでアナグマは駆除の恐れから逃れることができる、というわけではないのです。
もしも疫病の証拠が発見された場合は、イギリス政府はその該当地域を「駆除許可区域」として指定する権限を今後も保持し続けることになるからです。
これまでに行われてきた駆除のおかげで、実際に牛結核の症例は大きく減少したという結果も出ているようです。
今でも酪農業者は、アナグマを見つけては殺してしまうというやり方が最も手っ取り早く確実な方法だと主張しています。
しかし同時にアナグマの殺処分をいつまでも続けるということは、決して続けたくはないというのが多くの人たちの本音なのです。
実はアナグマはイギリスでは保護動物に指定されています。
絶滅危惧種ではありませんが、「Protection of Badgers Act 1992」(1992年アナグマ保護法)というアナグマ専用の法律まで制定されているほど、この国では大事に保護されてきた動物でもあるのです。
それにもかかわらず、これまで続けられてきた駆除政策はアナグマだけを悪者にし、とにかく殺処分してしまおうという方法でした。
その一方で、酪農業界の管理体制改善や家畜を移動させる際の厳格なコントロールなどは十分に行われていないという指摘もあり、批判が高まっていたのです。
ワクチンによる牛結核の撲滅が成功し、アナグマにとっても家畜たちにとってもいい方向に進むことを願うばかりです。
出典:
・Badger culls to be phased out in favour of vaccinations, Government announces
・'Seismic shift’: ministers signal end of badger cull | Environment | The Guardian