イギリス議会が可決したと報道された「動物に感情や感覚はない」という法案(?)

 

 

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現在EU離脱の手続きを進めているイギリスでは、今まで適用されてきたEU法を離脱後のイギリスでどこまで適用させるかについて、議論が続けられています。

 

そんな中、最近話題になったのが「イギリスの国会がEU離脱に関する法案に “動物たちは痛みを感じず、感情もない” という内容を盛り込んだ」という趣旨のニュースでした。

 

イギリスは今までEU加盟国であったため、否応なしにEUの法律に拘束されてきました。 しかし離脱後は基本的にイギリスの法律に従うだけですむ一方、今までEU法だけでカバーされていた部分については新しい法律が必要になります。 そのためイギリス議会ではEU法の該当条項を今のうちにイギリス法に盛り込むことで、離脱後も対応しようとしているのです。

 

そのような手続きの最中で、「動物たちには感覚・感情がある」と明記されているEU法の条項をイギリス法に盛り込むかどうか、国会で議員投票が行われました。

 

結果は否決。つまりこの条項をあえてイギリスの法律には明記しない、という結果となりました。

 

イギリス政府がこの条項は不要であると訴えており、その政府の主張が国会でも受け入れられた形です。

 

【誤解を生んだ報道】

話題になったのは、このニュースの報道でした。

 

当初「The Independent」という新聞は「保守党(政権与党)は動物たちが痛みを感じない、という内容の投票をした」(The Tories have voted that animals can't feel pain)という言葉遣いで報じました。

 

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「The Independent」紙はゴシップを扱うタブロイド紙ではなく、政治的にも中立の報道新聞です。

 

この報道後、多くの人たちからイギリス政府は動物に対する配慮を欠いているという批判が上がる一方、政府の方針を支持する人たちからは報道のされ方に対する批判が起こりました。

 

【イギリス政府の主張】

イギリス政府は「動物たちには感覚や感情がない、という趣旨の投票ではない。EU離脱後も動物保護は続けられる」と主張しています。

 

しかし「キツネ狩り」や「象牙取引」などについて明らかに後ろ向きの政策を打ち出す現政権の動物保護に対する姿勢は、決して好意的に受け止められていません。

 

animallover.hatenablog.com

 

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ここに今回のニュースが流れたため、まるでイギリス政府や与党が「動物たちには痛みを感じる感覚も感情もない」という内容の法案を可決したかのような印象を与える結果となりました。

 

政府や与党の国会議員たちの中には、すでにイギリスには「Animal Welfare Act」という法律があり、その中で動物を保護する規定が数多く定められている、EU条項など含めなくても動物たちの感覚・感情を守り続けることには変わりはない、と世論に反論しています。

(議員たちの中にはこの「Animal Welfare Act」に「動物の感覚・感情」条項が含まれていると主張している人もいるようですが、そのような条項はないそうです。)

 

結局、マイケル・ゴーヴ環境大臣は「 “動物の感覚・感情” 条項盛り込みの否決は、動物たちに痛みの感覚や感情があるという考え方を否決したわけではありません」とわざわざ新たな声明を発表するまでに追い込まれました。

 

【続けられる政府・与党への批判】

こういった政府・与党からの反論が続けられている中、「動物の感覚・感情」条項をそのままイギリスの法律に取り込むべきだ、という主張は大きな声で続けられています。

 

かつてEU法にこの「動物の感覚・感情」条項が盛り込まれたとき、他のEU諸国を率先して進めていったのはほかでもないイギリスであった、という皮肉な経緯もあります。

 

EU法が動物の感覚・感情を明確にしている一方、イギリスの動物保護法には明記されておらず、またカバーされている範囲もペットや一部の科学実験で使われる動物たちに限られていて、酪農の家畜たちや野生動物たちは対象外になっているそうです。

 

そのため、EU離脱後のイギリスでさらに進んだ規則を作っていくための基本としてこのEU条項が必要である、このままではイギリスの法律に「動物たちに感覚や感情がある」という明確な認識がなくなってしまう、ということが指摘されています。

 

【批判を続ける「The Independent」】

報道をめぐる一連の騒ぎがあった後、「The Independent」紙は現状をまとめた記事を公表し、そこでこういう指摘をしています。

 

「政府関係者は、メディアがウソのニュースを流したという主張をしているが、その一方でなぜ国会でこの条項を否決したのかについての明確な説明もなければ、動物たちに感覚・感情があるというハッキリした認識を示そうともしていない」

 

「結局政府は、今後も動物保護を約束するという政府の主張を信じこんでいる人たちに頼っているだけである」

 

「たしかに動物に感覚・感情がない、という投票をした人は誰もない。そんなことは投票で問われていないからだ。しかし、動物に感覚・感情があるという投票をしたわけでもないのである」。

 

 

 

(参考) 

The Tories have voted that animals can't feel pain as part of the EU bill, marking the beginning of our anti-science Brexit | The Independent

Animal sentience: What is really going on with the controversial Brexit amendment? | The Independent