"地獄はここに" インドで続く「ゾウ vs. 人」の惨たらしさを象徴する一枚の写真
インドの西ベンガル州。
ある日、3頭のゾウが人の生活している村の中に入り込んできました。
2頭の大人のゾウと、1頭の子供ゾウです。
村に入ると子供ゾウは大人のゾウたちに追いついていくことができず、その距離はどんどんと伸びていきました。
するとそこに居合わせた村人たちが子供ゾウのまわりを取り囲み、スマホで自撮りをし始めたのです。
子供ゾウはますます孤立してしまい、結局1頭だけ村人たちに囲まれ立ち往生してしまいました。
この子供ゾウはケガを負っていました。
2頭のゾウ(そのうち1頭はこの子供ゾウのお母さん)といっしょにジャングルから出てきて、食べ物を求めて人の住むエリアまで入り込んでしまったのです。
現地の村人たちは自分たちの暮らしが荒されては困るため、クラッカーを鳴らしてゾウを撃退し始めました。
クラッカーの音に驚いた大人のゾウ2頭はどんどんと逃げることができましたが、けがを負っていた子供ゾウは残され、離れ離れになってしまったのです。
そしてお母さんを求めて鳴き始めていました。
しかし村人たちは人間よりも体の小さいゾウだけが残ると、ここぞとばかりにはやし立て、写真を撮り始めたのです。
その後、子供ゾウを探しにお母さんゾウは戻ってきました。
しかしそのときにはすでに通報を受けた林野庁の職員が子供ゾウを保護していました。
運ばれた子供ゾウは獣医師が治療を施し、注射を打ちミルクを飲ませ、グルコース(ブドウ糖)のボトル4本与えて回復を待ちました。
しかしその甲斐もなく、数時間後に子供ゾウは息を引き取ったということです。
【「Hell is Here」という一枚の写真】
インドの野生ゾウと現地で暮らす人たちとの衝突は珍しいものではありません。
2017年にはその状況をとらえた象徴的な写真「Hell is Here」(地獄はここにある)が賞を受賞し、あらためて人々の関心を引くようにはなってきています。
このショッキングな写真は、決して合成写真ではありません。
実際にゾウたちに向かって火のついたタール(樹脂)の固まりを投げつける人たちがいるのです。
これはいたずらでやっているのではなく、ゾウに自分たちの暮らす民家や畑を荒らされてしまわないように行った防衛行為である、と現地の人たちは主張しています。
森林伐採などのせいで生活する場所が年々減っているゾウたちは、食べ物を求めて人の住む地域に入り込んでしまいます。
しかし現地の人たちにとっては、ゾウは大切な食べ物を取ってしまうだけでなく民家などを破壊してしまうこともある「困った動物」です。
暴れるゾウたちによって多数の死者が出ているという報道もあります。
同時に、現地のひとたちの手によって数多くのゾウたちも殺害されているのです。
この写真を撮ったハズラさんによると、この火に見舞われた子供ゾウはその前を歩くお母さんゾウといっしょに何とか現地の人たちからの攻撃を逃れ、森に戻ることができたそうです。
しかしゾウたちは明らかに皮膚を火傷し、子供ゾウは恐怖におののいて鳴き声をあげていたといいます。
さらに、それをあざ笑うかのようにはやし立てる村人たちの声も聞こえた、とハズラさんは語っています。
この地域では、クラッカーを鳴らしてゾウを脅したり、追い払うために火のついたタールを投げつけるという行為が日常化しています。
一方地元の村民たちの立場から言えば、ゾウをはじめとする野生動物たちは経済的に苦しい農民たちに大きな損害を与えているのだ、ということになります。
稲の育つ田んぼを壊し、農作物を食い荒らしてしまうため、中には生活ができなくなって自ら命を絶つ農家もあるということです。
こちらの動画は上の写真とは関係ありませんが、やはりインドの西ベンガル地方で民家などを襲うゾウの様子をとらえたものです。
被害にあっている現地の人たちが一方的に悪いわけではないでしょう。
もちろんゾウに責任があるわけでもありません。
ゾウはもともと他の動物たちに危害を加えて生きていく動物ではないのです。
今まで人が将来の影響を考えずに勝手な自然破壊を続けた結果が、ゾウにとっても人にとっても不幸な結果を生み出し、解決の糸口が見つからない状況になっているのです。