コロナウイルスの影響で野生動物保護活動が大きな財政難に直面
コロナウイルスが世界中へ広がり、旅行産業をはじめ経済全体を混乱させている中、世界各国の野生動物の救助センターは難しい資金繰りに頭を悩ませています。
例えばインドネシアのボルネオ島にあるオランウータン保護センターでも、ウイルスの広がりを最小限に抑えるため一時的に閉鎖し、外からの訪問を受け付けていません。
こうした野生動物保護施設の多くは、通常は観光客を受け入れてその入場手数料やボランティアの資金提供を募り、運営しているところがほとんどです。
コロナ対策で人の移動を制限した結果
南米エクアドルの野生動物救援センター「メラゾニア」でも、活動に必要な資金不足という問題に直面しています。
エクアドル政府は3月16日、コロナウイルスのパンデミックを受け、国内での移動を制限し始めています。
救助センターには約100頭の動物が保護されており、その動物のほとんどは南米で行われている違法取引から没収されたもので、そのまま野生に戻すことができません。
この施設でも資金の多くは観光収益から得ていましたが、現在は国外からの旅行者に対して国境が閉鎖されているため、この収入源もしばらくは期待できません。
ある飼育員は、保護されているアリクイのエサを買うための資金も十分に見込めないため、外を歩いているときにシロアリを見つけてはそれを拾い集め、エサとして与えているそうです。
人員削減しても数か月しかもたない
タイにある「Wildlife Friends Foundation」ではゾウ保護区の管理などを行っています。
ゾウ以外も含め700頭以上の動物を飼育していますが、その中でも25頭のゾウは飼育に手間もかかり、多くの食糧を必要とします。
この保護施設では、目先の資金繰りのためにスタッフの半数を解雇するという案も検討しました。
たしかに人員削減すればこの先数か月は施設の運営を続けることができそうなのですが、やはりその後は再び同じ問題を抱えることになるのです。
通常のビジネスであれば銀行からお金を借りることができますが、この保護センターは慈善財団として登記しおり、タイの法律では慈善財団は銀行からの借入ができない決まりになっているそうです。
この後3か月ほどたっても他の収入源が見つからなければ、これ以上保護活動を続けることができなくなりますが、もちろん檻を開けて動物を開放することなどは許されません。
その場合に残された唯一の方法は、動物たちを安楽死させることになってしまうのです。
マスクや薬の価格が高騰した中国
中国の成都では、NGO「アニマルズ・アジア」が飼育農場から救出した48頭のツキノワグマの避難所を運営しています。
中国ではクマの胆嚢から抽出される胆汁が漢方薬の原料として市場に流通しており、各地でクマの飼育農場が経営されています。
そうした農場に閉じ込められているクマたちを救出し、世話をしている団体です。
しかし中国政府がコロナウイルス拡散防止のために国レベルでの対策を実施した後、マスクや薬の価格が高騰しました。
保護されたクマの中には、痛み止めを打って生き延びている高齢のクマがたくさんいます。 その痛み止め薬の価格も高騰してしまったため、購入資金のやりくりが急に難しくなるという問題が発生したのです。
またこの保護区で備蓄していた飼育員用のマスク1万枚が突然紛失しました。 おそらく中国政府がコロナウイルス患者の治療に当たっている医療従事者に使わせる目的で奪っていった可能性があるようだ、とこの団体では見ています。
保護した動物の移動も禁止される
オーストラリアのNPO法人「Free the Bears」はラオス、カンボジア、ベトナムに保護区を運営しています。
ここでは2月中旬にクマを救出する計画を進めていました。
このクマたちも上記と同じく、胆汁を売るために農場に監禁されていたクマたちで、なんと18年以上も檻に入れられていたのです。
しかし、ベトナム政府がコロナ対策のため一時的に国内での野生動物の輸送や取引をすべて停止したため、この救出計画は急遽中止となってしまいました。
最終的にはクマをベトナム国内の別の保護区に移動させる許可を得ることができましたが、その後再びベトナム国内で野生動物の移動が禁止されています。
今後同じようなクマが発見されても、保護することができなくなっているのです。
野生動物取引の禁止へ動き始める
このように、コロナウイルスの影響で野生動物保護活動の分野でもこれまでにない財政面での大きな問題が発生しているのです。
なお、前向きな報道もありましたので、最後にご紹介しておきます。
2月下旬、中国政府は野生動物の取引と消費を一時的に禁止し、2020年後半には全面禁止を決めた法律が施行される予定になっています。
またベトナムでも、病原菌を運んでしまう野生動物たちが今回のような感染症の原因になっているという懸念から、フック首相が野生動物の違法取引・売買を全面的に禁止する指令書を作成するよう、ベトナムの農業省に要請したという報道もありました。