「ロードサイド・ズー」って何? 鎖につながれた赤ちゃんトラの保護と悪質な取引の横行

このシベリアトラは、メキシコシティのあるレストランの駐車場に鎖でつながれていました。

 

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地べたに寝そべる以外何もやることがなく、ただ日の過ぎていくのを待つだけの毎日を送っている、まだ生まれて間もない小さなトラです。

 

 

 

レストランを訪れたお客さんは、このトラの赤ちゃんを背景に自撮りをして楽しそうに見ていますが、店内に入って美味しい食事が始まればトラのことなど忘れてしまうのです。

 

しかし2018年12月、動物保護団体「Federal Attorney for Environmental Protection」の担当者がこのトラを見つけ、そのひどい生活から救い出されました。

 

【ロードサイド・ズー】

このトラは生後わずか4、5か月ほどで、状況から考えて野生動物の違法取引を通してこの場に運ばれた可能性が高いと思われます。

 

レストランなどの店舗が客寄せのために屋外に動物をつないで “展示” するというこのひどい扱いは、「ロードサイド・ズー」(道ばた動物園)と呼ばれています。 ロードサイド・ズーはいたるところで行われており、そのためトラやクマといった動物たちに対する需要が高く、ここにビジネスチャンスを見出しネットワークを張っている業者たちが裏で動いているのです。

 

当然販売をしている業者だけでなく、購入してロードサイド・ズーを営んでいる飼い主もやはり法を犯したことになります。 もし合法手続きでトラを手に入れたのであればその入手ルートを証明する書類が発行されますが、この赤ちゃんトラの飼い主はそういった正式な書類は何も持っていませんでした。

 

こうした事例はさほど珍しくありません。 2018年の始めには、米テキサスでボストンバッグに入ったトラの赤ちゃんが発見されたことがありました。

 

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この赤ちゃんトラもやはり業者が「展示」用に売り飛ばすために違法に輸入したものだったことが分かっています。

 

いずれの場合も、母親トラは檻の中に入れられて子供を産むためだけに飼育されている可能性もあります。 しかし違法取引であるうえに、上記のように出生の記録が残されていないため、赤ちゃんトラたちがどこから来たかを追求するのは事実上不可能なのです。

 

 

 

さらに残酷なのは、密輸のターゲットにされるトラは病気だったりケガをしていたりする場合が多いことです。 体が弱っているために捕まえられやすく、そのまま治療もされずに売り飛ばされて、違法ペットとして人の手に渡ります。

 

人の手といっても、違法で動物を買い取る人たちですから、最初から面倒を見る気などはなく、鎖につないでほったらかしという状態が続きます。 彼らはあくまでロードサイド・ズーのための展示物として動物を手に入れているにすぎないのです。

 

今回保護された赤ちゃんの場合も、明らかに満足なエサを与えられておらず、カルシウム不足と診断されました。 現在この赤ちゃんはメキシコ政府の「アニマル・マネジメント・ユニット」によって治療を受けており、状態が落ち着いたら別の施設に移送され長期的なケアを受けることになっています。

 

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残念ながら発見・保護される例は決して多くありません。 鎖でつながれたまま保護されることなく衰弱してゆき、そのまま命を落としてしまうトラたちのほうが圧倒的に多いのです。

 

動物園などで合法に飼育されているトラは、アメリカ国内だけでも約5,000頭と推測されていますが、野生に暮らすトラは全世界でわずか3,800頭ほどと見積もられています。

 

トラの違法取引は野生に暮らすトラがターゲットになっているので、当然その生息数に悪影響を及ぼしています。 近年は野生のトラを飼育しようとするのは残酷な行為である、ということが広く認識されるようになってきました。

 

こうした認識の変化は良い方向へ向かっているようですが、それでも「ロードサイド・ズー」の需要は続いており、野生に暮らすトラの絶滅の懸念が払しょくされるわけではないのです。

 

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