ゾウ専用の病院がインドで開院 治療のみならずアジアゾウの研究にも貢献へ
2018年11月、インド北部のマトゥラーという場所に、ゾウ専用の病院が開院しました。
野生動物保護団体「Wildlife SOS」とインド北部の州ウッタル・プラデーシュの森林保護庁が共同で運営するもので、すでに20頭を超すゾウのケガや病気などの治療を行っています。
1,100平方メートルの広さを誇るこのゾウ病院には、ワイヤレスのデジタルレントゲン撮影、レーザー治療、赤外線画像、超音波検査、水治療法、さらにはゾウの精神を安定させる機能まで充実した設備が整っており、単なる保護施設ではなく本格的な治療ができる医療機関になっています。
【インドにいるゾウたちの状況とは】
世界のアジアゾウの半数以上がインドに生息していますが、ここ10年ほどでその数は大きく減少しています。
2012年から2017年にかけて、インド国内の23の地域で約10パーセント減少していることが分かっています。年間平均すると80頭のゾウが人の生活や活動に巻き込まれるかたちで死亡しているそうです。
ここで「人の生活や活動」といっているのは、電線に接触して感電する、列車と衝突するなどという事例に加え、密猟目的で射殺したり毒入りのエサを与えるなどといった違法行為も含まれます。
インドではゾウが文化的な象徴とされていることは、日本でもよく知られています。 しかし、人とゾウとの関係が長い歴史を持っている国である一方、ゾウたちは必ずしも大切にされてきたわけではありませんでした。
今でもインドでは観光業や宗教儀式のためにゾウを檻の中で飼育しているところが多く、その頭数は数千頭に及ぶとも言われています。
背中の上に重い鞍(くら)を取り付けられ、その上に複数の人が乗り、その状態で長い距離を移動させられるのです。最近になって、こうした活動は動物虐待であるという意識が広く共有されるようになってきましたが、今でもいたるところで続けられています。
ゾウ専用病院では、このように長らく人に飼育され、事実上虐待されてきた結果健康を害してしまったゾウたちが治療を受けています。
冒頭で述べた最新の医療機器を用いて治療をし、健康を回復したゾウたちは、退院後はゾウの保護区に移動して野生に戻る準備を始めます。
【4年に一度の国勢調査と29のゾウ保護区】
アジアゾウが絶滅危惧種に指定されたことから、近年になってインドの野生動物保護法のもとで強力で本格的な保護活動が行われるようになってきました。 インド政府は2010年、ゾウを国家遺産的な存在と位置づけ、減少を続けているこの動物の保護政策を強化してきています。
さらにさかのぼって1992年には「プロジェクト・エレファント」を開始し、政府が4年に一度ずつインド全土のゾウ生息数の国勢調査を行ってきました。 そのほかの保護活動もこのプロジェクトのもとに集中して行われています。
インド全体では29のゾウの保護区が指定されており、6万5千㎢の広さをカバーしています。 そこにはゾウ専用の通路も用意されています。ゾウは野生の中を移動して暮らす動物ですので、ゾウの生活に適した場所は一か所にとどまらず、複数の場所が用意される必要があるからです。
また現代では持ち運び可能な動物用の診療機器も多くなり、そういう意味でもゾウの治療は以前よりもやりやすくなってきています。
今回開院したゾウ専用病院では、世界中の獣医師や学生たちにもアクセス可能な場所にして、アジアゾウの現状についての情報を保護活動をしている人たちと共有し、今後のアクションを推し進めていきたいとしています。
実際のところ、アジアゾウについての研究はアフリカゾウに比べると進んでいないという事実もあるそうです。
ケガや病気の治療のみならず、ゾウの行動学や獣医学・病理学の研究に貢献し、さらにこうした研究結果がゾウの保護政策にも活かされることが期待されているのです。
出典:
Abused elephants nursed at India’s first elephant hospital - YouTube