最近ヨーロッパでライオンの赤ちゃんが発見されているのはなぜ?
先日、フランス・パリ郊外のアパートでライオンの赤ちゃんが見つかり、所有者の男が捕されるというニュースがありました。ライオンは野生生物保護当局に引き渡されたそうです。
このBBC日本語版の記事には、ほかの似たような事件が紹介されています。
2017年には同じくフランス・パリ市内にある無人の共同住宅で、衰弱したライオンの赤ちゃんが発見されたことがありました。 このライオンは今年8月、南アフリカの動物保護区に引き取られています。
また今月初めには、オランダでジョギング中の人が檻に入れられ野原に置き去りにされていたライオンの赤ちゃんを発見したという報道もありました。
これらはすべて野生動物の闇取引に関わる事件であると見られています。
【赤ちゃんライオンたちはヨーロッパ生まれ】
実はヨーロッパで違法に飼育されているライオンの赤ちゃんたちは、その多くが野生で生まれたものではないそうです。
ライオンを飼育しているオーナー、無責任なブリーダー、許可なしに運営されている動物園、倫理観のないサーカスなど、こうした人たちのもとで生まれた赤ちゃんが違法に流通している可能性が高いと見られています。
一方、密輸の可能性も否定できません。
ライオンに限らずヨーロッパに生息していないはずの動物については、規制がかなり厳しくなっているため、アフリカやアジアから密輸するのはきわめて難しくなっています。
しかし不可能ではありません。 過去にも密輸業者たちがネコ科の大型動物を隠して空港のセキュリティを通過しようと試みた例は複数ありました。
空港で見過ごされたり、場合によっては何らかの ”見返り” を与えられた空港職員が意図的に黙認したりすることもないとは言えないようです。
【お金持ちたちが気軽に手を出すペット】
このように、ヨーロッパ内で生まれたか、もしくは何らかの方法で密輸された大型ネコ科動物の赤ちゃんたちは、それなりの資産を持った「お金持ち」たちがペットとして購入していることが分かっています。
先日パリで発見されたライオンの赤ちゃんの場合、1万ユーロの値段でソーシャルメディアに売り出されようとしていました。
ライオンは「百獣の王」と呼ばれるように、富と権力の象徴として扱われてきた動物です。ライオンを飼っていることがステータスのシンボルと(少なくとも一部の人たちには)見られてきたわけです。
もちろん、世の中のすべての金持ちたちが違法な手段を使ってライオンをペットにしようとしているわけではありません。 金があれば何でも許されると勘違いしてしまう一部の人たちが、不正なルートでこれら大型ネコ科動物を手に入れるという間違いを犯すのです。
その一方で、単なる知識不足が原因で購入してしまう場合もあるようです。
ご覧の通り、たとえ百獣の王でも赤ちゃんの時はとても可愛い顔をしているため、お金のある人たちはマスコット感覚で手を出してしまう、という例が報告されています。 もちろん「可愛かったのでつい買ってしまいました・・・」などというのは正当な理由になりません。
【十分な飼育は事実上不可能】
ちゃんと面倒を見るんだからいいじゃないか、という主張をする人もいます。
しかし、犬や猫などのように人類の歴史とともに長い年月をかけて家畜化されてきた動物とは異なり、野生動物が完全に人になつくことは難しいと言われています。 たとえ赤ちゃんの頃から人が育てたとしても、家畜になりきる可能性は低いと専門家は述べています。
とくに、何かの不手際で逃げ出したりしたら大問題になります。
また、たとえ裕福なお金持ちでも、飼育のために必要な準備ができない場合が多くあります。
ライオン専用のペットフードなどは販売されていないため、ドッグフードを与えて済ませている飼い主もいるようです。
また犬や猫には毎日運動が必要ですが、これはネコ科の大型動物も同じです。 しかしあの巨体に見合った運動用の場所など、そう簡単に用意できるものではないのです。
【結局、手放すことに】
エサの準備すらお手上げで、加えて運動不足から凶暴になってしまうリスクと隣り合わせの状態が続く、という状態におちいります。
購入時に飼い主たちが抱いていたマスコット感覚などはなくなってしまい、最終的には手放すことになってしまうのです。
冒頭で紹介したフランスやオランダの事例では、発見されたときには衰弱していたり檻に入れらて捨てられたりしています。
飼い主の中には自分から当局に名乗り出て、事情を説明し、動物たちを引き取ってもらうよう依頼する人もいるそうです。
しかし、こういう例は少数派です。 もし購入経路が違法であった場合、当然のことながら犯罪者として逮捕・起訴される可能性が高いからです。
【違法業者だけが金を手にする悪循環】
いずれにせよ、いったん保護された動物は、何よりもまずその健康状態のチェックから始まります。 虐待のあとがないかも確認します。
問題ないことが確認された段階で、次に保護施設を探し始めることになります。 野生動物センターや動物園、保護区域などがその候補になります。
こうして、動物たちが一時的であるにせよ、身を寄せる場所が決められていきます。
それでも、本来動物たちが暮らしているはずの野生に戻ることが出来るかどうかは分からないのです。
これでは飼い主も動物も幸せになれるわけがありません。
それだけでなく、罪のない動物を巻き込んで違法取引をした人たちが汚い金を手にして終わるという、最悪の結果をもたらすのです。