再開されるハイイログマのハンティング あえて狩猟に「参加」しようとする保護活動とは?

 

2017年6月、アメリカ合衆国政府はハイイログマを絶滅危惧種のリストから外しました。

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(英語で「grizzly bear」と呼ばれるハイイログマ)

 

 

 

この結果、ワイオミング、モンタナ、アイダホの各州では制限付きながらもクマのハンティング再開の動きが出てきました。

 

その中のワイオミング州では2018年5月、州の狩猟を管轄する委員会がハイイログマのハンティングを全会一致で賛成し、近々ハンティングを再開することで動き始めています。

 

【動物愛護活動家たちがハンティング権を求める?】

ワイオミング州では、クマのハンティングの権利を購入するためにくじ引きが開かれます。当選した人が委員会にお金を払い、ライフルを持ってクマたちの暮らす森に入り込む権利を手に入れることができる、という仕組みです。

 

このくじ引きに、野生動物保護を訴えるグループが参加を訴えてきました。彼らはなぜくじ引きをボイコットするのではなく、参加を促したのでしょうか?

 

このグループは5人の女性たちが集まって始まった活動でした。ミーティングを開き、ハイイログマをどのようにすればハンティングから守ることができるか、みんなでアイデアを出し合いました。

 

そうして出されたアイデアは「できる限り多くの人たちがくじ引きに参加し、ハンティングの権利を獲得し、その権利を行使しない」というものでした。

 

くじ引きの開催そのものを止めることはできない。それならばこのくじ引きに多くの「反ハンティング」の人たちが参加して権利をできるだけ多く勝ち取り、その上でこの権利を使わない。そうすれば、少なくともその分はクマの犠牲を減らすことができる、というのがこのグループの作戦なのです。

 

5人の女性たちはウェブサイト(http://shootemwithacamera.com/)を立ち上げ、SNSのアカウントも作り、このくじ引きへの参加を呼び掛けました。上記のスローガンとともに、地元の新聞にも広告を載せてより多くの参加を訴え続けました。 

 

また、くじ引きに当選するとライセンス料を支払う必要があるため、このプロジェクトに賛成でも参加をあきらめざるを得ない人たちもいました。そういう人たちの費用を援助するために、ネット上で募金活動が行われ、現時点で36,000ドルを超える額が集まっているようです。

 

(募金サイト(英語))

www.gofundme.com

 

【ハイイログマの生息は回復した?】

ハイイログマをアメリカの絶滅危惧種リストから外すという動きは、トランプ氏が大統領になる前から始まっていました。まだオバマ政権だった2016年3月にリスト除外の報道があり、同時に65万人を超える人たちから反対の声が寄せられていました。

 

かつてハイイログマは北米地域に約5万頭生息していたといわれていますが、19世紀半ばごろにクマの狩猟が普及してその生息数は大きく減少しました。激減が確認された1975年、アラスカ州を除くアメリカ全土で絶滅危惧種に指定され保護活動が始まったのです。

 

現在生息数は約700頭にまで回復したと見られています。ハンティング賛成派の人たちは、ここまで回復したのだから頭数制限をする限り生息数への悪影響はない、と主張しているのです。

 

結局、今まで44年間にわたって禁止されてきたハンティングが再開されてしまうことになります。

 

このハイイログマを絶滅危惧種から外すという政府の決定に対して、訴訟が行われる可能性があります。2018年8月中に連邦裁判所が何らかの決定を下す予定になっています。

 

もしも政府の決定が不当であるという判決になれば、このワイオミング州でのハンティングも解禁されないであろうと見られています。

 

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【無駄にはならない抵抗】

しばしば権力側の行うことは圧倒的に強力なので、一般市民が抵抗しても無駄に終わる可能性も高いものです。「くじ引き参加+権利不履行」という今回の作戦にしても、果たしてどこまで効果があるのか、そもそも作戦自体が上手く行くのか、誰にも分かりません。

 

しかしこういう行動の一つひとつが、かけがえのない動物たちに目を向ける大切な機会を提供しています。万が一結果そのものが望ましくなかったとしても、その行動は十分意味があるといえるでしょう。

 

 

 

www.theguardian.com