クアッカワラビーとの自撮りブームをめぐる賛否両論
「クアッカワラビー」はオーストラリアのパースに近いロットネスト島に数多く生息している有袋類です。
この動物はオーストラリア西部を訪れる観光客たちにとても人気があります。
人気の理由はいつも笑っているように見えるその可愛らしい顔だけではありません。人が近づいたりカメラを向けたりしても怖がらないため、いっしょに「自撮り」ができる動物なのです。
これは一般の観光客のみならず、テニス選手のロジャー・フェデラーや女優のマーゴ・ロビーといった数百万人のフォロワーがいる著名人たちも、クアッカワラビーとの自撮り( "クアッカ・セルフィー" )をアップしています。
Meet my new furry friend.
— Roger Federer (@rogerfederer) 2017年12月28日
So happy to be back down under 🙃#HappyQuokka @westernaustralia #justanotherdayinWA pic.twitter.com/YvgdMCs13u
2018年3月、ロットネスト島が属する西オーストラリア州政府も、このクアッカ・セルフィーを国内・海外からの観光客誘致のために新たに促進していくと表明しています。
しかし最近、インスタグラムで「#quokkaselfie」を検索すると、この警告画面が出てくるようになりました。
「Instagramでは、動物虐待、絶滅危惧動物やその一部の販売は禁止されています。あなたは、動物や環境への暴力または有害な行為を助長する投稿に関わる可能性があるハッシュタグを検索しています」
現在この「#quokkaselfie」で検索すると、22,500を超える写真が投稿されています。
この警告画面が出されるようになってから、クアッカワラビーの写真が果たして有害なものなのか、賛否両論が起こっています。
インスタグラム側からは、このクアッカ・セルフィーに関する説明は出ていません。しかし2017年12月に「動物や環境への有害な行為と関連する」ハッシュタグについては警告を発する予定だと表明しており、この警告画面はまさにそれが実行されたかたちになります。
【写真撮影についての規則はなし】
ロットネスト島では、人がクアッカワラビーに触ったり餌付けしたりすることは禁じられています。
違反した場合は犯罪行為として扱われ、最高で1万オーストラリアドルの罰金が科せられることになります。2015年には、二人のフランス人バックパッカーがクアッカワラビーに火をつけるという残虐ないたずらをし、罰金を科せられています。
また蹴飛ばした場合も同様に犯罪行為と見なされます。
しかし写真撮影についてはとくに決まった規則はありません。
実際のところ、ロットネスト島の当局はインスタグラムに対してこの警告を取り下げるよう依頼しているのです。
「インスタグラムに出される警告は役に立つものとは言えません。私たちの自然保護活動についての啓蒙や情報提供もなく、また現地の生き物たちについてより深く理解してもらえるようなものでもないのです」。
また西オーストラリア州の観光大臣も「クアッカワラビーとの自撮りは西オーストラリア州でなければ撮ることができないものです。つまり、観光客を誘致する手助けになるのです」と語っています。
【専門家たちの見解】
シドニー大学のハーバート博士は、クアッカワラビーに餌付けをするのは間違いなく害がありますが、いっしょに自撮りをすることについては果たしてどんな害があるのか分からない、と述べています。
「動物たちのほうから人に近づいてくるときがあります。行動の様子も普段と変わらないように見えることもあるでしょう。しかし、そういうときに動物たちがどれくらいのストレスを感じているかについては、必ずしも分かっていません」。
結局は人が責任感を持って行動するべき、と指摘する専門家もいます。
哺乳動物の専門家であるカーティン大学のクーパー博士はこう指摘しています。
「クアッカワラビーが落ち着いていて嫌がっている様子もなく、自分から人に近づいてくるようであれば、おそらく写真を撮ることは問題ないでしょう。しかし人がこの動物の嫌がることをしたり、写真を撮るために追いかけたりするようなことはあってはいけないのです」。
クーパー博士はクアッカワラビーを観光産業のためにプロモートするのは「両刃の剣」になりかねない、と言っています。
「多くの人に知ってもらい、この動物に近づくことを認めることで、良い相乗効果が見込まれる部分はあるでしょう。しかし宣伝する以上は、動物との触れ合いが正しく行われるよう管理できなくてはいけません」。
この記事を書いているBBCの記者も、ロットネスト島でクアッカワラビーに餌付けをしている観光客を目撃した一方、触ったりエサを置いたりすることを禁じたルールを正しく守っている観光客もいたと証言しています。
(Quokka selfies: Is Instagram's welfare warning 'overkill'? - BBC News)
【ほかの場所ではエスカレートした例も】
以前にこのブログで「観光地での「動物セルフィー」は野生動物虐待に関与することになるので注意」という記事を書いたことがありました。
ここで紹介した例は、現地の人たちが野生動物を捕まえ、観光客に「自撮り用の動物」として写真を撮らせて金を稼ぐ、という動物虐待の上に成り立った悪質なビジネスの話でした。
今回の「クアッカ・セルフィー」はそこまでひどい状況にはなっていないようです。
しかし、犬や猫といったペットとは異なる動物たちが、人の接近によってどのようなストレスを抱えるかはよく分かっていないません。
忘れてはいけないのは、「観光客の前に動物たちが現れる」のではなく、「動物たちの暮らしている場所に観光客が入り込んでいる」ということだと思います。
そういう意識を持つだけで、人と動物の間で避けることができる問題があるはずです。