キタシロサイ「スーダン」の死とサイの密猟の惨状
この動画は2018年2月半ばごろに、サイの保護活動を行っているチャリティ団体「Rhino 911」によって撮影されたものです。
まだ小さな子供のサイが、死んで動かなくなったお母さんの周りを歩き回っています。おそらくおっぱいを飲もうとしてお母さんに近づいているようです。
最初、この子供のサイだけが歩いているところが発見されました。
しかし、ふつう子供のサイが1頭で歩き回るということはありません。 状況の異常に気づいたこの自然公園の監視員が近づいて調べると、殺害された母親が倒れており、角が切り取られているのを発見しました。
現場に駆けつけた人たちは、お母さんのサイはおそらくこの動画の数時間前に殺害されたと見ています。
通常お母さんが密猟者たちに襲われると、子供もいっしょに殺害される場合がほとんどです。 子供には角はありませんが、お母さんが殺されても子供はその場を離れず、密猟者たちが角を切り取るときに邪魔になるため殺されてしまうのです。
しかしこの現場では、殺されずに生き残っていました。
救助されるとき、この子供のサイは極度に人を恐れました。麻酔を施し、さらに目隠しをして運ばなくてはいけないほどでした。
救助された子供はメスで、「ロッティ」と名付けられました。
その晩、ライオンが母親の死体に群がっていたのが目撃されています。 あのまま発見されず母親の近くにいたままだったら、ロッティも犠牲になっていた可能性が高かったでしょう。
ロッティはまだ生後1か月ほどであると見られています。 母親がいないため、施設でミルクを与えられて育てられており、自然に返すことができるようになるまで長い時間がかかりそうです。
他の密猟者をおびき寄せてしまう可能性があるため、この動画が撮影された場所についてはハッキリとは明かされていません。
しかしこの自然公園内では、本来ならば密猟など出来ないはずの場所です。 それにもかかわらず白昼堂々とこのような殺害が行われていることは、大いに懸念すべきことなのです。
この公園では、1月から2月にかけての4週間でロッティのお母さんを含めて11頭のサイが犠牲になっています。 おそらく密猟者たちは夜中に公園近くの山の中に隠れていて、早朝にサイを殺害し角を切り取って逃げているのではないか、と考えられています。
3月19日、最後のキタシロサイのオス「スーダン」が安楽死を迎えたことで、サイという動物が絶滅危惧種であることにあらためて注目が集まりました。
以前このブログで、キタシロサイに体外受精を試みているという記事を紹介したことがあります。
今まで体外受精は人や家畜には行われてきましたが、サイについては成功した例がありません。
スーダンを含めたキタシロサイのオスたちの生殖細胞は、死ぬ前に抽出され保存されています。その一方で、生き残っているキタシロサイのメス2頭はともに妊娠に耐える体ではないことも分かっています。
現在検討されている方法のひとつは、2頭のメスから卵子を抽出し、保存されているオスの精子と体外受精させ、その受精卵をキタシロサイの親戚であるミナミシロサイのメスの胎内で育てる、というものです。
しかしたとえこの方法が成功しても、この生き残った2頭のメスは母と娘であるため、その子供たちが交われば近親での交配になり遺伝的多様性が保たれない、という問題もあります。
専門家たちの間では、残された生殖細胞をつかって細胞培養を行い最終的に胎児まで育て上げるというアイデアも唱えられてきましたが、あくまで理屈上の話とされてきました。
しかし、2012年にノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授による iPS細胞の技術が適用できれば、このアイデアが実現する可能性も見えてくるそうです。
このように、「残された希望」と言われているのも、あくまでも研究室で専門家たちの手によって行われる作業に頼ったものになります。
いま生き残っているミナミシロサイやクロサイたちが、同じような状況に陥ることがないよう、密猟の廃絶を強く祈るばかりです。
(出所)
Starving baby rhino nudges dead mother after poachers hacked off her horn | Metro News
Sudan, the Last Male Northern White Rhino, Dies in Kenya - The New York Times