カナダの動物園 その劣悪な飼育環境で「生きる気力を失った」クマの話

 

 

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カナダにある「スプルース自然公園」はオンタリオ州南部の、アメリカとの国境近くにある動物園です。

 

カナダの広い敷地を活かし個人経営されているこの自然公園では、ケガをしたり捨てられた家畜やペットの救助・受け入れを始め、保護された野生動物の救助も行っている、とウェブサイトには書かれています。

 

この動物園を、野生動物保護の活動をしているチャリティ団体「Zoocheck」が訪れたとき、檻に入れられた1頭のクマを発見しました。

 

この団体のジュリーさんは、このクマは「生きる気力を失っている」様子だったといいます。

 

クマの名前は「ベン」といい、このスプルース自然公園に25年以上ものあいだ暮らし続けてきました。

 

その間ずっと、この檻の中に閉じ込められていたのです。

 

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ベンはもともと動物園で生まれたクマではありません。

 

オンタリオ州の自然の中で生まれましたが、母親とはぐれてしまったため、州政府によって保護されました。

 

そしてこのスプルース自然公園に移送されたのです。

 

しかし保護された当時の檻に入れられたまま、体が大きくなっても同じ檻で飼育されています。

 

ジュリーさんは「この動物公園は動物の救助をしているなどと主張していますが、動物にとってこれ以上悪い飼育環境はありません」と批判しています。

 

「とくにベンの檻は、北米で最悪の飼育環境だといえるでしょう。私たちの団体ではアメリカやカナダのあらゆる飼育施設を観てきましたが、ベンの暮らす環境ほど悪いものは見たことがありません」。

 

ベンの檻は7メートル四方というクマにとっては小さいもので、大人のクマが十分に運動できる広さではありません。

 

睡眠用の箱は噛みちぎられていてしまっており、遊ぶためのタイヤが吊るされていますが、ベンがそれで遊んでいる様子もありませんでした。

 

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こういう刺激のなさすぎる環境に置かれると、動物たちはいわゆる「常同行動」というものをし始めます。

 

これは心理的な負担が限界に達することで、同じ行動を延々と繰り返すという状態になる症状です。

 

動物の場合、同じ場所を何度も行き来したり、ひとつの場所に不自然に横たわったりする行動が典型的なものです。

 

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「昔はストレスのために鬱屈した状態で過ごしていたと思います。しかし、どこかの段階で “自分はここから抜け出せることはないだろう” というあきらめに達したはずです。すると動物は生きる気力を失ってしまい、いわゆる学習性無力感の状態になってしまいます」。

 

「学習性無力感」とは、長い間ストレスから逃れられない状況に置かれた動物が、その精神的な活力を失ってしまい、そこから抜け出そうという努力すら行わなくなってしまう、という心理状態を表す言葉です。

 

「自分にはいいことが起こることはない、ということを悟り、ただ死ぬまで時間がたつのを待つだけになります」。

 

ベンはおそらく、水すらも清潔で新鮮なものを与えられていなかったと思われます。

 

「汚いバスタブがおいてあり、そこには取り替えられていない水が溜まっていたのです。私たちがこの動物園を訪れたとき、水道などの水を取り入れる設備すらないことが分かりました」。

 

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しかし、このような状況に閉じ込められていたのはベンだけではなかったのです。

 

「ほかの肉食動物も、同様の状態で苦しんでいるものが多くいました。水が取り替えられている様子もなく、腐ったエサが檻の中に置かれたままでした。この動物園には檻を掃除する準備も整っていないようでした」。

 

ライオン、コヨーテ、ピューマ、オオカミなどは、ベンと同じように自分たちの檻の中を行ったり来たりする「常同行動」を見せ、また時には近づいてきた人に凶暴な態度を示したりしていました。

 

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スプルース自然公園側からは、コメントは出ていないようです。

 

ジュリーさんは、これらの動物たちを正式な認可のおりている野生動物保護区へできるだけ早く移すことを主張しています。

 

そしてそのためには、この動物園に対してできるだけ多くの人たちが批判の声を上げ、世論の圧力で閉鎖させるよう働きかけることを訴えています。

 

 

今までこのブログでも「ガザ地区の動物園 ようやくすべての動物を保護」や「アルメニアの「世界で最も悲しい動物園」からライオン親子が救出される」など、動物園で檻に閉じ込められ放置されてしまった動物たちの惨状を見てきました。

 

これらは紛争地域や貧困地域などで起きていることでした。

 

しかしカナダのような先進国でも似たようなことが起きているという事実は、とてもショッキングなことです。

 

 

 

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