大けがを負ったペンギン「ミス・シンプソン」が9か月間のリハビリを経て海に戻るまで

 

 

オーストラリアのタスマニア島で、早朝の海岸に多くの人が集まってきました。

ペンギンの「ミス・シンプソン」が9か月間のリハビリを経て、今日ようやく海に返されることになり、みんなが見送りに来ているところです。

 

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【犬に襲われたペンギン】

2014年7月、タスマニア島西部の海岸を歩いていた人たちから「犬が鳥を襲っている」という通報がありました。

担当者たちが調査したところ、海岸を一羽のペンギンがフラフラと歩いているのを発見しました。

 

背中、胸、そして脚にも大きな傷を負っているこのペンギンには、黄色い眉毛のようなものが目立ちます。

これは「ハシブトペンギン」と呼ばれるペンギンで、ふつうはニュージーランドから南へ200キロメートルほど離れた「スネアーズ諸島」に生息する種類です。

 

ときどきハシブトペンギンがタスマニア島で目撃されることもあるそうですが、自分で泳いで帰ることが出来ます。

しかしこのペンギンのケガの度合いはひどく、冷たい水の中で生き延びることができないほどでした。

 

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【ミス・シンプソン】

緊急手術を受けたこのペンギンは「ミス・シンプソン」と呼ばれるようになりました。

すぐに海に帰ることが出来ないため、地元で海鳥のケアを30年にわたって行ってきたレスリーさんのもとに運ばれました。

 

レスリーさんによると、運び込まれた時点でのミス・シンプソンの体重はわずか2.2キロしかありませんでした。

「もし発見されていなかったら、長く生きることはできなかったでしょう」。

ミス・シンプソンはレスリーさんのところで8週間過ごし、少しずつ体重も増え、傷も治り始めました。

 

保護されたばかりのミス・シンプソンは大けがに加えてストレスで参っており、周りに人が近づくとくちばしで攻撃しようとしていました。

レスリーさんは辛抱強く、エサの魚を与えながらなだめ続けたおかげで、少しずつ慣れてくれるようになりました。

 

しかしミス・シンプソンの背中のケガだけはなかなか治らず、傷口付近は羽根も生えてこないままでした。

 

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【専門家たちの意見の板挟みに】

完全な回復まで当初想定した以上の時間がかかりそうだと判断したレスリーさんは、ミス・シンプソンを「ボノロン・ワイルドライフ自然保護区」へ移送することにしました。

この自然保護区でミス・シンプソンの世話を引き受けることになったペトラさんは、獣医や鳥類の研究者など多くの専門家から意見を集め、最善なケアをできるよう努めました。

 

しかし専門家たちの意見も様々に分かれ、どのアドバイスを取り入れるべきなのか、ペトラさんは悩み続けました。

 

「背中のケガは新たな手術をする必要がある」「来年になって羽根の生え変わる時期が来るまで辛抱強く待つべきだ」「残念だが、回復の見込みはないから安楽死させるべきだ」・・・

 

しかし、最初に世話をしていたレスリーさんの意見も含めて考え抜いたペトラさんは「野生動物には時間をじっくり与えるのが最善の方法」と判断しました。

そしてミス・シンプソンにはあえて手を施さず、次の羽根の生え変わる時期が来るまでじっくりと世話をし続ける、という決定をしました。

 

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その後7か月間にわたり、ペトラさんは経験豊富な飼育員たちとともにミス・シンプソンが気分よく暮らせるよう毎日時間をかけて世話をしてきました。

新鮮なエサの魚を用意し、傷口の悪化を防ぐ処置をし、砂やプールの掃除を欠かさず清潔に保ちつづけるよう努めました。

 

そしてこのやり方が功を奏し、傷口のまわりの羽根が抜け始め、そして新しい羽が生え始めたのです。

これでようやく自然に帰ることが出来る見込みが出てきました。

 

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【ミス・シンプソンの見送り】

ミス・シンプソンを海へ放す日、ペトラさんは複雑な気持ちで一杯になりました。

ようやく海に戻ることが出来るという安心と、かつて生活していた場所までたどり着けるだろうかという不安、そして泳ぎつく途中で危険な目に会うかも知れないという心配などが混ざったものでした。

 

その日は風もなく、波のうねりも比較的穏やかな日でした。

朝日が昇り始め水平線を描き出し始めています。 

 

これはそのときの様子をとらえたボノロン・ワイルドライフ自然保護区による動画です。

(音楽がかかるので音量にご注意ください。)

 

このあと無事に生息地のニュージーランドまで戻れたのかどうか、誰も知ることはできません。

人ができるのは、野生動物が自然に帰れる状態にまで回復するよう世話をしてあげることまでです。

 

しかし、ミス・シンプソンのケガは犬に襲われたことが原因で、これは海岸に遊びに来た人が連れてきた飼い犬である可能性が高いそうです。

人がもう一つできることがあるとすれば、海でも山でも遊びに行くときは野生動物に危害を加えることがないよう身の回りのものには責任を持つ、ということだと思います。

 

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(出典) 

Farewell Miss Simpson — Bonorong Wildlife Sanctuary

Freedom for Miss Simpson, the penguin found 2,000km from home | Environment | The Guardian

Rare Penguin Is Kept In Intensive Care For 9 Months After Devastating Injury