生存数わずか3頭の「キタシロサイ」に初めて体外受精の試み
サイの一種である「シロサイ」には「キタシロサイ」と「ミナミシロサイ」の2種類がいます。
キタシロサイとミナミシロサイはお互い近しい種ではありますが、別々の種に分かれたのは100万年前であると考えられています。
このうちミナミシロサイはアフリカ南部を中心に約2万頭が生息していますが、キタシロサイは現在世界に3頭しか生存が確認されていません。
キタシロサイも1960年代には2,000頭以上が生息していたことが確認されています。
しかしその後、角を目的として行われ続けた密猟の結果、絶滅直前の状態まで追い込まれてしまったのです。
生存する3頭はすべてチェコの動物園が保有していますが、現在はケニヤで暮らしており、現地では武装した警備員が24時間体制で警備にあたっています。
3頭の内訳はオスが1頭、メスが2頭ですが、オスは年齢が43歳と寿命に近づいており、またメスの2頭も完全な健康体ではないため、このままでは自然の繁殖は期待できません。
【シロサイに体外受精の試み】
イギリスの「ロングリート・サファリパーク」の専門家たちは、このたびシロサイに世界最初の体外受精を試みることになりました。
このサファリパークに暮らすミナミシロサイから卵子を取り出し、試験管の中での成長を試みる、初めての取り組みです。
摘出された卵子はイタリアにある研究所へ送られ、ケニヤに暮らすオスのキタシロサイから摘出された精子と交配させ、体外受精のプロセスが進められることになります。
今回のプロジェクトを担当したジョン・メリントンさんは「サイは2トンもある動物です。体内に1.5メートル入り込まないと卵子を摘出できません。それほどこの作業は複雑なのです」と語っています。
サイのように大きく、また長い体長の動物については特別な機器を使う必要があるため、きわめてむずかしい作業になるそうです。
(英ロングリード・サファリパークで卵子摘出をされるミナミシロサイ)
今回の体外受精では、ミナミシロサイの卵子にキタシロサイの精子を交配させるため、成功した場合でもいわゆる純血の種が誕生するわけではありません。
しかしこの試みが上手くいけば、近い将来には生き残った3頭のキタシロサイの間でも体外受精を行い、キタシロサイの純血種が続くことが期待できます。
ケニア現地では、今回の結果次第では、2017年中にキタシロサイ間の体外受精が実行されるを望んでいます。
(現在生き残っているキタシロサイのオス)
【体外受精させてまで守るべき?】
体外受精はもちろん自然に任せた交配ではない方法です。
上記の通り、最新の科学技術を使ってすら困難を極めるプロセスが用いられています。
そんなやり方をしてまで動物を存続させるのは行き過ぎではないか?という意見もあるようです。
キタシロサイはすでに老齢の3頭しか生き残っていない以上、事実上の絶滅種なのだから、それよりもミナミシロサイの生存に力を尽くすべきだ、ということをいう人たちもいます。
しかし専門家たちは交配種をつくるほうが種を絶滅させてしまうよりいい、と語っています。
(キタシロサイを救え 最も極端な動物保全の形 - BBCニュース)
そもそも、体外受精をしなくてはいけないような状況にまで追い込んだのは、私たち人間であることを思い出す必要があります。
キタシロサイのオーナーであるチェコの動物園の担当者はこう語っています。
「今まで人は、サイを絶滅に追い込む力があることを証明してしまいました。しかし今、私たちにはサイを守ることができるか、ということが問われているのです」
「もしこれ(体外受精)が失敗したとしても、その結果は受け入れなくてはいけません。キタシロサイの絶滅は今まで人間が自然に対してどんなことをやってきたか、そのシンボルとして残るでしょう」
「自然界では他にも多くの動物たちが消えていこうとしています。私たちの目には、それらがキタシロサイほどはっきりと見えてこないだけなのです」。