キタリス vs. ハイイロリス イギリス国内で駆除と保護の対立が起こる

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「キタリス」と呼ばれるこのリスは、かつてイギリスに生息していましたが、その数は激減しています。

 

この「キタリスの生息するイギリス」を復活させようと、イギリス東部のウェールズにある島で、天敵といわれる別種のリス「トウブハイイロリス(頭部灰色りす)」の完全な駆逐が行われました。

 

【在来種の「キタリス」と外来種の「トウブハイイロリス」】

1950年代以降、イギリス国内のキタリスの生息数は急速に減少しました。

 

かつては350万匹いましたが、現在では13万匹と見られています。

 

一方、トウブハイイロリスは19世紀にアメリカからイギリスに持ち込まれた外来種であるといわれています。

 

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1960年代になって、ウェールズに属する「アングルシー島」にも渡ってきたとみられ、1998年には在来種のキタリスの生息地を完全に乗っ取っとってしまいました。

 

その結果、この島にはわずか40匹のキタリスのみ生存する状態にまで追い込まれたのです。

 

このハイイロリスはリス特有の伝染病ウィルスを運ぶと考えられており、この伝染病をうつされたキタリスはどんどん死んでしまう、という説が有力です。

 

外来種の駆除と「人道的な」駆除方法】

この状況を受け、アングルシー島ではハイイロリスを駆除する計画が実施されました。

 

アングルシー島では、2013年にはハイイロリスを目撃することがありました。

 

しかし、宝くじ基金によって集められた資金で行われたこの駆除計画により、現在はハイイロリスがまったく生息しない場所になった、と関係者は語っています。

 

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この駆除は決して簡単に済むものではありませんでした。

 

駆除方法や技術の準備、地主など地元の人たちの協力を得る必要がありました。

 

ハイイロリスの駆除では、生きたまま捕まえる技術が用いられ、毒殺や罠で捕らえて殺してしまう方法は採用されていません。

 

この方法では、捕らえられたハイイロリスはいったん麻袋の中に入れられます。

 

そしてその袋のすみに追いやられたところを見計らって、後頭部に一撃を加えられ、一息に殺されるのです。

 

200名を超えるボランティアとプロジェクトチームが参加しましたが、関係者の間では、この殺害方法は「人道的な」やり方と考えれているようです。

 

ハイイロリスを駆除しキタリスの増加を期待する関係者は「キタリスは珍しいため、ここの住人はみんな見たがっています。プロジェクトに支持をもらうためにも、キタリスが繁殖して増えてくれることが必要なのです」と語っています。

 

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外来種の一方的な駆除に反対する声も】

このアングルシー島で行われた駆除作戦は住人たちの賛同を得ましたが、全てのイギリス人の支持を同様に得たわけではありません。

 

「キタリスの保護」から「ハイイロリスの駆除」へ活動の内容が変わって行ったことは、道理の通らないことであると考えている人も多くいます。

 

ビジネスマンのアンガス・マクミラン氏は2006年12月、家族とともに「Professor Acorn」というウェブサイトを開設しました。

 

このサイトでは「全てのリスについて、その起源や毛皮の色に関係なく、バランスを保ちつつみんなで助けて行きましょう」と訴えています。

 

マクミラン氏は「ある種が単に外来種であるという理由だけでその外来種を殺してしまうというのは、別の種を守るという目的のためであっても、私は倫理的に誤っていると感じるのです」と語っています。

 

「イギリスだけでなく、海外からも私たちの考えや活動に賛成してくれる人たちがいます」

 

現在までに、「イギリスのハイイロリス駆除に反対する署名」には14万人の賛同者が参加しました。

 

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反対を唱えている人たちは、ハイイロリスを捕まえて殺してしまうのは無差別で残虐な行為だとして非難しています。

 

「野生動物にストレスを与える行為です。まだ赤ちゃんにおっぱいを与えているお母さんリスまで殺してしまうため、残った赤ちゃんは辛い時間を過ごしながら徐々に死んでゆくしかありません。またリスを射殺する方法も大変残酷です。リスは、猟銃を撃つ人間の反応よりも早く動くため、リスを苦しませずに即死させる保証などはないのです」

 

この「Professor Acorn」ウェブサイトでキャンペーンを行っている人たちは、キタリスが果たして本当にイギリスの在来種なのかを調査し、またハイイロリスがキタリスの減少した理由であるという説に異議を唱えています。

 

「ハイイロリスはリスの伝染病ウィルスを広める元凶だとして非難されていますが、それはハイイロリスがそのウィルスに対する抗体を持っているからなのです。しかし、抗体を持っているリスがいつもそのウィルスを運び広めているとは限らないのです」

 

「たとえ抗体があっても、ハイイロリスもつねに病原菌と隣りあわせで、病気と戦いながら暮らしているのです。ちょうど私たち人間がインフルエンザにかかって、しばらく寝込んで治療するのと変わりありません」

 

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【ハイイロリス駆除の成功を喜ぶ人たちも】

しかしキタリス保護を推進しているグループにとっては、ハイイロリスと伝染病ウィルスとの関係は明白なものとされているため、駆除は伝染病の拡大抑制とキタリスの生息数増加につながっているとしています。

 

「ハイイロリスの駆除は決して排外運動ではありません。ハイイロリスは外来種なのですから、とにかくこの国にいるべきではないのです。このキタリス保護運動の成功が、ほかの外来種の駆除についても証明してくれました」と関係者は語っています。

 

現在のウェールズでは、アングルシー島はキタリスの最大の生息地であり、また遺伝的な多様性が最も確認できる地域です。

 

イギリス国内ではほかにも、スコットランド湖水地方などでもキタリスの生息が確認されています。

 

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さて、イギリスからハイイロリスを完全に駆除するつもりなのでしょうか?

 

「決してあきらめません。今までの経験から、ハイイロリスというのは1匹を殺すと2匹がその墓から出てくる、といわれるほどしつこい動物なのです」

 

「しかし、このアングルシー島で始めたことは実を結んでいるわけですから、ここで学んだことをイギリスのほかの地域でも活かしてゆけば、いつか国全体からハイイロリスを駆除することができるかもしれません」

 

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