経済危機のギリシャで捨て犬の保護活動をする元歯医者さん
つい近頃までギリシャ経済危機について騒がれていましたが、その影響は当然のことながらギリシャ市民にも及んでいます。
ギリシャでは生活費を出来る限り切り詰めるため、いままで飼っていた犬を捨ててしまう人が後を絶ちません。
経済危機に見舞われるまで、この犬たちは家族の一員として愛されていました。
それが今、ごみのように捨てて置き去りにされ、お腹をすかせてさまよっているのです。
しかしある一人の男性が、捨て犬たちを拾い、今まで200匹以上の命を救ってきました。
この男性はタキスさんと呼ばれている元歯科医師です。
タキスさん(44)は自分の住んでいる地域で犬たちが苦しんでいるのを見てショックを受け、自分の持つ全てを投げ打って保護活動を始めました。
「私はまったく一人で活動しています。私もお金があるわけではなく、自動車を売り、キャンピングカーを売り、財産は何も残っていません。借金をしなければいけない状態です」
タキスさんはこの保護施設をすでに3年以上前に開設しましたが、当時は40匹ほどの犬を保護していました。
「ある日ごみ溜め場に行ったとき、そこで恐ろしくひどい光景を目にしたのです」と保護施設を開設した理由を説明しています。
「とてもたくさんの犬がいて、足が折れている犬やお腹をすかせている犬などばかりでした。とてもやせ細っていて、病状もひどく死にかかっている犬もいたのです。恐ろしい光景でした」
「とにかく助けたいと思ったのです。そして犬の世話を始めることにし、エサと水を運んであげました。犬たちがだんだん元気になってゆくのが分かると、私はとても嬉しかったです」
「ところがその近隣に住む人たちが、私の活動に苦情を言い始めました。彼らは、犬は邪魔になったから殺そうとしていたのだ、と主張していたのです」
「そのため、犬を保護できる場所として、私はこの施設を開設しました」
現在、この保護施設はどんどん拡大し5,200平方メールの広さになりました。
タキスさんは月に1,300ユーロのエサ代と、700ユーロの獣医師への支払いをやりくりしなければいけません。
タキスさんによると、今のギリシャの獣医師たちにはどんなサービスも無料でおこなう余裕はありません。
たとえ割引を適用されても、雌犬の去勢手術をするのに150ユーロかかるのです。
過去3年間、彼は自分のお金で50~60匹のための去勢手術費用をやりくりしてきました。
このお金は寄付で助けられてきました。
寄付のうち98%は、ヨーロッパやアメリカなどギリシャ国外から寄せられています。
タキスさんによると、地元の当局は援助の手を差し出す余裕はないし、差し出す気もない、とのことです。
犬の世話にかかる費用が膨大になるため、人々は犬を路上に捨て、自力で生きざるを得ない状況に置き去りにしてしまいます。
ギリシャに9年間住むイギリス人のレスリーさんも7匹の犬の飼い主ですが、経済危機が起きてから路上に捨てられる犬の状況が目に見えて悪くなっている、と語っています。
「捨て犬の数はギリシャを襲った経済危機に直結していると思います」とレスリーさん。
「犬を飼っている人はみんな1匹だけではなく5~6匹飼っています。犬を去勢するという文化がこの国にはないので、飼いはじめたときは1匹でもその後繁殖してしまい、結局欲しくもないし飼い続けることもできない犬を持つことになるのです」
これが犬が路上に捨てられているもうひとつの理由なのです。
ある犬は捨てられた車の中に置き去りにされ、ある犬はフェンスにつながれたまま飢え死にさせられ、また最悪のケースでは、生きたまま毛皮をはがされ、夏の炎天下の中に捨てられた犬もいたようです。
タキスさんの保護施設にとって、この不運な犬「フェルナース」に出会ったことが、ターニングポイントになりました。
(毛皮がはがされた状態で救助されたフェルナース(上)と、回復してきたフェルナース(下))
「この犬の写真をネットにアップし、その治療の様子を公開したところ、助けを申し出てくれる人たちがたくさんいました。おかげで私の保護施設は今でも運営できており、将来も続ける希望が持てています」
先週、タキスさんは運送用の車を1台購入しました。
この自動車も、保護施設を助けるために立ち上げられた資金調達ウェブサイトを通して寄付された資金で購入したものです。
この車を使って犬を獣医のところへつれて行ったり、海外で里親が見つかった場合は空港まで犬を連れて行くことも出来るようになるのです。
「これが私の生きがいなのです。とても難しい仕事ですが、私はこの仕事にやりがいを感じています。大きな苦労が伴いますが、犬たちが幸せになり、生活を楽しみ、そして再び人を信用するようになるのを見ると、私の苦労も報われるのです」
【タキスさんの活動への寄付サイト(英語)】