宇宙に行った唯一の猫「フェリセット」 半世紀後にようやく認識されたその功績
1950~60年代にかけて、宇宙開発を進めていた先進諸国は先を争うように動物たちを宇宙に送り込み、宇宙飛行が動物の生体に与える影響を調査しようとしました。
当時のソヴィエト連邦はモスクワをふらついていた野良犬を捕まえ「ライカ」と名付け、宇宙に送り込みました。 またアメリカではチンパンジーの「ハム」が宇宙に送られており、ライカもハムもそれぞれの国で宇宙開発に貢献した重要な動物として記憶されています。
一方、フランスからは猫が宇宙に送り込まれました。
穏やかな性格がゆえに選ばれたフェリセット
宇宙に猫を送ったのは今のところフランスだけです。
しかしこの猫はつい最近まであまり話題になることがありませんでした。
フランスの宇宙開発プログラムによって14頭の猫が集められ、そのすべての猫が脳に電極を埋め込まれました。
そして宇宙飛行士が受ける訓練と同じような運動を強制されていきます。
フランスではすでに猫の脳神経に関するデータの蓄積があったため、宇宙へ送る動物として猫を使うことに決めたのです。
トレーニングを続けた結果、「C341」番のまだら色の猫が最も適した猫であると判断されました。
性格が穏やかだったことも選ばれた理由の一つだったそうです。
この猫は「フェリセット」と名付けられました。
1963年10月18日、フェリセットはフランスが開発した観測ロケット「ヴェロニク」に乗せられました。
そしてアルジェリアにある発射場から161km上空まで打ち上げられたのです。
約5分間にわたる無重力状態を経て、フェリセットはパラシュートで落ちてきました。
発射から着陸までのプロセスは15分。ヘリコプターに乗った宇宙開発局の職員たちはフェリセットの入っているキャビンの着陸地点にまで急行しました。
キャビネットの中のフェリセットは生きており、元気だったそうです。
「宇宙猫 生還する」と報ずる当時の新聞(1963年10月20日付 シドニー・モーニング・ヘラルド紙)
解剖のために安楽死させられたフェリセット
しかし2か月後、フランス政府はフェリセットを安楽死させたのです。
宇宙飛行が猫の体にどういった影響を与えたかを検査する、というのがその理由でした。
そして、そのままフェリセットは忘れられていったのです。
フランス本国では誰も思い出す人がいない中、1990年代に入ってからフランスの旧植民地だったチャドやニジェールといった国々がフェリセットをモチーフにした切手を発行したことで、この猫が再び注目を浴びるようになりました。
そして(フランス人ではなく)イギリス人のマット・ガイさんがこのフェリセットの話を耳にし、この猫の業績が正しく認識されていないことを知ってショックを受けました。
半世紀以上たって認識された評価
ガイさんは2017年、クラウドファンディング「Kickstarter」で資金集めを始めました。
「今まで54年にわたって、宇宙に行った初めての、そして唯一の猫の話がほとんど忘れられてきました。しかしこの猫は記念碑が作られるに値するのです」とガイさんは述べています。
そして4万ポンドを目標に資金集めを行い、最終的に4万3千ポンドを集めることに成功しました。
約1.5メートルのブロンズ像を建てるのに十分な資金です。
2019年12月18日、フランスのストラスブールにある国際宇宙大学で、フェリセットの像の除幕式が行われました。
フェリセットは小さな地球の上に座り、真直ぐに上を見上げています。
Many thanks to Geraldine Moser from @ISUnet for sending me photos of the statue of #Felicette the space cat, recently unveiled at a ceremony at the ISU campus in Strasbourg (pic 3 of 3, image credit: Photo Expression, ISU) pic.twitter.com/gjL76J5N6o
— mars_stu (@mars_stu) January 6, 2020
その姿は、かつて自分が行った宇宙を見上げているようです。
参照:
・Felicette, the First Feline in Space, Finally Gets Her Due | HowStuffWorks
・A statue to Félicette, the first cat in space. by Matthew Serge Guy — Kickstarter
・Félicette, the First Cat in Space, Finally Gets a Memorial | Smart News | Smithsonian Magazine