「EU離脱」はイギリスの動物福祉にどんな影響を与えるのか?

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2019年12月12日に行われたイギリス総選挙で保守党が議席過半数を獲得したことで、2020年1月末をもってEU離脱が行われる可能性が高くなりました。

 

動物福祉の観点から見たとき、果たしてEU離脱はどんなインパクトがあるのでしょうか。

 

EU加盟国であるおかげで制定された法律の数々

EU加盟国では、自国の法律よりもEU法のほうがより強くなるため、EU法に合わせて自国の法律も変えていくことが求められます。

 

イギリスで施行されている動物福祉に関する法律は40を超えますが、その80%以上がEUの法律に準拠するために制定されたものでした。

 

EU法で動物福祉を扱っているものは家畜、野生動物、研究実験用の動物、ペットなど、幅広い分野をカバーしています。

 

加えて、EUの最も基本的な合意である「リスボン条約」では、動物は "感覚・感情を持つ存在" として扱われています。

 

EUを離脱した後のイギリスは、これらEUの動物福祉法に合わせる義務を負わなくなるのです。

 

 

 

動物福祉の水準が低い国との貿易

これまでイギリスはEU諸国との貿易が大きな比率を占めていましたが、今後はEU圏外との貿易が多くなることが予測されます。

 

つまりEU諸国とは異なり、動物愛護に対する意識の低い国との貿易を行うこともあり得るのです。

 

具体的には、アメリカ合衆国との貿易が増えるという意見も多く聞かれます。

 

アメリカでは:

・牛に成長ホルモンを投入する

 

・多くの州で「バタリーケイジ」と呼ばれるニワトリの飼育方法を採用する

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・動物の種類ごとに特化した絶命方法を採用しない

 

・ブタを「妊娠ストール」で飼育する

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・・・ということがいまだに許されています。

 

アメリカとの貿易が増えるということは、EU諸国の水準からはほど遠い状態で飼育された家畜を輸入することを意味するのです。

 

離脱後の混乱の中、動物福祉の余裕がなくなる可能性も

イギリスの畜産業界はこれまでEUから30億ユーロの助成金を受けてきました。

 

イギリス政府はこの助成金に代わるものを探している状態です。

 

30億ユーロ相当の助成金が実現できなければ、酪農業者は少ない資金での運営を強いられることになり、結果として動物福祉対策が後回しにされる可能性もあります。

 

助成金だけではありません。

 

このままではいわゆる「合意なき離脱」になる可能性も高くなっています。

 

その場合は、これまで心配する必要のなかった関税が最重要課題になるため、動物福祉の水準維持(または改善)などは二の次にされてしまう可能性が出てくるでしょう。

 

さらに気になるのは、これまでEUに合わせて制定してきたイギリス国内の動物福祉に関する法律も、EU離脱後はイギリスだけの事情で変更することが可能になる、ということが挙げられます。

 

離脱後すぐに動物福祉の基準が下がるわけではない

それでも、EUを離脱したとたんに動物福祉に対する基準が急に下がってしまう、ということではありません。

 

上記の通り、イギリスではすでにこれまで数多くの動物福祉に関する法律が定められています。

 

その多くはEU加盟国であったことが理由で制定されたものですが、イギリスの法律であることは事実です。

 

そういった法律がEU離脱後すぐに無効になってしまうわけではありません。

 

もともとイギリスという国自体、動物福祉に対する意識の高い国でした。

 

動物福祉の水準を高めようとする動きは、EUからの要請の有無にかかわらず行われてきたことでもあるのです。

 

この国からは今後も学べることがたくさんあるはずですので、引き続き注目してきたいと思います。

 

 

 

参考:

What Brexit means for animal welfare | RSPCA

1からわかる「ブレグジット」(2)メイ前首相編|NHK就活応援ニュースゼミ