ロバの生息数 5年後には半分になる可能性 皮革が中国の生薬製造のために需要増大

ロバやラバの保護活動を行っている団体「Donkey Sanctuary」が2019年11月、世界中でロバの生息数が大きく減少しているというレポートを発表しました。

 

具体的には、2007年と比べてブラジルで28%、ボツワナで37%、キルギスタンで53%も減少しています。またケニヤやガーナでもそれぞれ10%ほど減少している可能性があるということです。

 

この一番の原因は、ロバの密輸です。

 

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中国の生薬に使われるロバの皮革

「ロバの毛皮」を使った衣類や小物は、革製品の中ではそれほどポピュラーではないと思います。

 

しかしロバの毛皮は漢方薬(生薬)の製造に使われるため、中国で大きな需要があるのです。(この場合は「毛皮」というよりも「皮革」と言ったほうが正しいかも知れません。)

 

ゼラチン状の生薬「阿膠」(あきょう)は、一年間で480万頭分のロバの皮革が必要とされるほどの需要があります。

 

このスピードで減少を続けると、全世界のロバの生息数(現在約4400万頭)は今後5年間で半減してしまうだろう、とレポートは警告しています。

 

盗まれ、ひどい状態で輸送されるロバたち

中国に向けて運ばれるロバの多くは、野生のロバを密猟で捕まえて輸送されるものではありません。

 

地元住民たちが一緒に暮らしているロバが盗まれ、密輸されているものがほとんどなのです。

 

盗まれたロバは南米やアフリカから中国までの長距離を生きたまま詰め込まれて移動させられ、途中エサや水を与えられることもありません。

 

当然のことながら、目的地に着くまでに2割近いロバたちが死んでしまいます。

 

脚を骨折しているものも珍しくなく、運ばれるときも耳や尾を引っ張られて移動させられています。

 

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妊娠中のメス、子供、中には病気やケガをしているロバたちまで運ばれています。

 

密輸業者たちの目的は皮革だけですので、輸送中のロバの健康状態などはまったく気にしていません。

 

ロバはひどいコンディションの中で、ただ殺害され皮をはぎ取られるためだけに運ばれていくのです。

 

中国国内でもロバの生息数が大きく減少

生薬「阿膠」は血流を促進し、貧血などの治療に役立つと信じられている、中国に古くから伝わる医薬品です。

 

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ロバは中国国内にも生息しています。しかしその生息数もまた、1992年以来76%減少しています。

 

生薬の需要増大に追いつくためには、国外からの輸入に頼らざるを得なくなっているのです。

 

その一方で、国外からの密輸を止めるためにロバの飼育を中国国内で行うことも検討されています。

 

しかしそのための資金を投入しても、ロバは繁殖にとても時間のかかる動物のため、中国国内の需要に追いつくためには20年かかるだろうと言われています。

 

 

 

ロバの窃盗と疫病の広がり

問題なのは、動物愛護の側面だけではありません。

 

ロバは、おもに経済的に豊かではない国々で、移動手段として数多くの人々の生活を支えている動物でもあります。

 

とくに山道などあまり幅の広くない道には馬よりも小柄なロバのほうが適しているため、山村ではロバたちと一緒に暮らしている人たちがたくさんいます。

 

しかし密猟者たちが彼らからロバを盗み取ってしまうため、現地の人々にとっては生活を脅かす大きな問題となっているのです。

 

とくにここ数年にわたってロバの "価格" は大きく上昇しており、例えばケニヤでは2016年から2019年にかけて約2倍にまで跳ね上がっています。

 

また、密輸が横行している中で、ロバたちのもつ病気まで広まってしまうという事態も報告されています。

 

事実上の違法取引ですから、衛生面などのチェックが行われていない皮革が市場に流れ込んでいるのです。

 

中にはロバや他の動物たちだけでなく、人にも感染する病気(人獣共通感染症)が含まれていることも判明しています。

 

まずは業者との関係を断つこと

今回のレポートが発表される前からロバ密輸の問題は報じられており、このブログでも2年前にこの問題を取り上げたことがありました。

 

animallover.hatenablog.com

しかしこの2年間で状況は変わっておらず、むしろ悪化しているようにも見受けられます。

 

レポートを発表した「Donkey Sanctuary」という団体も、「阿膠」という生薬の製造そのものを止めるように訴えているわけではありません。むしろ中国の薬膳文化にとって、ロバの皮革が重要な材料であることは認めています。

 

しかしこの生薬の製造販売をしている業界が、ロバの窃盗・密輸を行っている組織との関係を断ち切ることと、ロバの皮革に代わる原料の発見に向けて努力を重ねていくことが必要だということを訴えているのです。

 

5年後に地球上のロバが半減してしまうなどということは、絶対に避けてほしいと思います。

 

 

 

www.theguardian.com