ネパールに暮らすトラの生息数が10年で約2倍 それでも絶滅の危機は続く
ネパールに生息する野生のトラについて、生息数が増加したという明るいニュースがありました。
2008年にはわずか121頭だった生息数が2018年には235頭へと2倍近く増加していることが判明したのです。
これは保護活動のたまものであることは間違いないのですが、通常の保護活動とは少し違うアプローチが行われた結果でした。
森林へ依存した生活からの脱却
イギリスの学術団体「ロンドン動物学会」は、約25年にわたりネパールに暮らす野生のトラたちの保護活動を続けてきました。
しかしその方法は、ケガをしたトラを保護施設に輸送して手当てをする、というオーソドックスなアプローチではありません。 トラの生息地の近くで暮らしている現地の人々を援助する、という方法を実践してきたのです。
現地で暮らす人たちは、昔から近くにある森林で得られる自然の恵みを生活の糧としてきました。
しかし彼らが繰り返す農地開拓のための森林伐採や、動物たちを獲物とする狩猟などが過度に行われてきたことから、結果的にトラの生存を脅かすことになってしまいました。 人間の活動がトラの獲物を減らし、さらには生息地を狭めてしまったからです。
現地の人たちにとってはあくまで自分の生活のため、家族を守るためにやらざるを得なかったことだったのでしょう。 しかし、意図的ではなくとも、国立自然保護公園内に入り込んで動物を殺してしまうという犯罪が行われてしまうことも少なくありませんでした。
人の生活改善が動物の生息数を増加させる好循環
こうした状況に対して今回とられた方法は、動物を守るという直接の活動ではなく、現地で暮らす人々が森林の自然に依存しない暮らしを始める手助けをする、というものでした。
資金の貸し出しを行い、必要な技術の訓練を行うことで、合法的に、より安全で持続可能性の高い生活を始めることが出来るようになります。 こうして、今までのような森林への過度な依存をせずに生活を営むことが出来るようになるのです。
たとえば酪農業の運営やホテルの経営など、これまで現地にはなかった仕事を生み出し、それを収入源とすることで、自然を必要以上に破壊せずに生きていくことが出来るようになります。
これが単に現地の人々の生活水準を上げるという人道的な活動で終わることなく、むしろその先にある人と野生動物との衝突を避けるという大きな目的につながっていくのです。
もちろん、行われた方法は現地の人たちへの生活改善支援だけではありませんでした。
ロンドン動物学会とネパール政府は協力して、国立自然公園の周りに「緩衝地帯」を設けてきました。ここでいう緩衝地帯とは、人の住む場所と動物たちの暮らす場所を直接隣り合わせにはせず、そのどちらでもない(人も動物も暮らしていない)地帯のことです。
こうした地帯を設けることで、どちらの邪魔をすることもなくトラの生息数をモニタリングし、密猟に対するパトロールを強化することが出来るわけです。
まだまだ安心はできない
ネパールではトラの生息数が上記の通りこの10年間で2倍近く増加しており、これは先進国と現地の人たちとの協力が成果を上げたいい例であると言えるでしょう。
もちろんネパールでこうした明るい話があるからといって、アジア全土で安心だというわけではありません。
ネパールを含めたアジア全域で、トラの生息数は4,000頭に満たないと言われています。トラが今でも絶滅の危機に瀕していることに変わりはないのです。
ラオス、マレーシア、中国ではその生息数はむしろ減少を続けています。
またネパールで生息数が増えているのも、あくまで国立自然公園内に暮らすトラの話です。 保護区域にされていない地域に暮らしているトラの数が増えているわけではありません。
ネパールでのトラの生息数増加はもちろん喜ばしいニュースですが、まだまだ本格的な生息数回復のためにはやらなくてはいけないことがたくさんあるのです。