英スコットランドでビーバーが保護対象に指定される 農家との折衷案に期待

 

イギリスのスコットランドではビーバーが保護対象に指定されました。今後はビーバーを殺害することだけでなく、ビーバーの作ったダムを壊したりすることも違法行為になります。

 

今回の法規制により、ビーバーがこれまで以上に繁殖するものと期待されています。その一方で、成立に至るまでは地元の農家の人たちの不安や反対意見との折り合いをつける必要がありました。

 

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【いったんは絶滅したビーバー】 

ビーバーはかつてイギリスにたくさん生息していましたが、毛皮目的の狩猟が原因で16世紀に一度絶滅しています。それ以来、イギリスでは21世紀に入るまで絶滅状態が続いていました。

 

2009年から2014年にかけて、ノルウェーから連れてこられたヨーロッパ・ビーバー16頭がスコットランドの自然に放されました。 その16頭が現在は450~550頭にまで増えており、いったんは絶滅した野生動物が再び自然に定着したひとつの成功例として評価されてきました。

 

ビーバーを自然環境に放して、野生で繁殖するよう努力を重ねてきた理由は、ビーバーの存在が地元の生態系に大きな影響を与えるからです。

 

それはビーバーが食物連鎖の中で果たす役割だけではありません。 ビーバーたちが木の枝を一本一本運んで作り上げるダムが、その周りの湿地帯を守るうえでとても重要な役割を果たし、さらには洪水を防ぐ働きもしてくれるのです。

 

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ビーバーのダムはスポンジのような役割を果たしており、水をいったん吸い込んで堰き止めて、それを徐々に下流に流す働きをします。そのため、ビーバーの生息する水流では洪水が起きにくい、もしくはその害が小さくなるということが分かっています。

 

【地元の農業従事者との衝突】 

しかし、ビーバーたちが定着するようになる以前からその繁殖には大きな不安がありました。 それはビーバーの生息地に近いところで暮らす人たちとの衝突が避けられないだろう、ということでした。

 

ビーバー自体が農作物を荒らしてしまうということではなく、ビーバーが農地の近くにダムを作ってしまうと、それが農業用水路を破壊してしまうことがあるからです。ある農家の場合、年に60万円から70万円の損失になっているそうで、農業で生計を立てている人たちにとってビーバーが「余計な邪魔者」になってしまうのも仕方のないことです。

 

これまでビーバーについては保護を求める法律がありませんでした。そのため、特別の許可がなくても捕獲・殺害を行うことが可能でした。

 

農家たちはワナを設置して撃ち殺すという方法で “害獣駆除” を行い、 また定住を防ぐためにビーバーの作ったダムを見つけ次第破壊したりすることも、今まではやりたいように出来たのです。

 

単に動物愛護の精神だけでなく、生態系維持や自然災害防止のためにもビーバーの保護・繁殖を進めるべきだという専門家たちと、ビーバーに農作業を邪魔されてしまうと生活が立ち行かないという農業従事者との間で、大きな対立が起こっていたのです。

 

 

 

【模索しながらも前進】

今回導入される法律では、基本的にビーバーを捕獲・殺害したり、そのダムを破壊することは認められていません。農業を守るためとはいえ、勝手に害獣駆除した場合は違法行為となってしまいます。

 

しかし同時に「その他の選択肢がない場合」だけ、最後の手段として駆除することが許されるという規定になっています。ビーバーの専門家たちも、このやり方ならばビーバーの自然繁殖を妨げることはないだろうと述べています。

 

現時点ではまだこの新しい法規制が成功するかどうか、はっきりとは分かりません。農家では今でもビーバーが大きな問題だと訴えている人たちが多く、この法律のおかげで保護推進派と農業従事者との対立が解消されたわけではないのです。

 

しかし動物と人間が共存できるよう、模索しながら先に進めていく姿勢には学ぶべきものがあります。今後もビーバーとの共生については、注目していきたいと思います。

 

 

 

animallover.hatenablog.com

 

出典:

Beavers given protected status in Scotland - Discover Wildlife

'Historic day for Scotland' as beavers get protected status | Environment | The Guardian