交通事故で犠牲になった猫たちの身元確認のため法改正を訴え続けるイギリスのグループ
スヤスヤと眠っているこの猫は「トフィー」と名付けられ、イギリスのある地方で飼い主家族の一員として暮らしていました。
しかし2018年1月31日の夜から行方が分からなくなりました。そのまま行方不明の状態が続いたため、飼い主家族は迷い猫の目撃情報を求めてポスターを作り、捜索活動をしていました。
結局、トフィーは遺体で発見されました。交通事故死でした。
実はトフィーは地元の自治体が亡き骸を回収していましたが、飼い主家族には何も連絡がありませんでした。
トフィーにはマイクロチップが装着されていたので、もしスキャンをしていれば飼い主の情報が確認できたはずでした。 自治体は当初、マイクロチップの確認をしたと言っていましたが、実際はしていなかったことも後になって判明したのです。
トフィーの飼い主家族は悲嘆にくれながらも、なんとか愛猫を埋葬し、見送ることが出来ました。しかしせっかくマイクロチップが装着されていても、トフィーの場合のように無視されてしまうことも多く、飼い主が知らない所で猫の遺体が回収されている、というパターンも少なくないのです。
【ヘレナさんの活動】
路上で生活している猫が交通事故に巻き込まれるのは決して珍しいことではありません。
事故後、その場で猫の救助が行われる場合もあります。しかし、飼い主の有無も確認されないまま死骸として「ゴミ」扱いされ、無残にも捨てられてしまう、という例も少なくないのです。
イギリスのマンチェスターに住むヘレナさんもまた、愛猫のギズモを亡くしたつらい経験があります。
その後フェイスブックでグループ「Gizmo’s Legacy」(ギズモの遺産)を立ち上げ、事故に遭った猫がそのまま捨てられてしまうことなく飼い主と再会できるよう、ボランティア活動を始めました。
猫を路上で発見した場合、その猫の画像をフェイスブックのページで公開することで、早い場合は1時間後にその飼い主が判明することもあるそうです。
現在、このグループには3万2千人の仲間たちが集まり、ヘレナさんに賛同する人たちが協力しながらその活動が続けられています。冒頭のトフィーの飼い主たちも、この活動に参加しています。
「道路の清掃をしている人たちは、猫の死体が見つかったらすぐに捨ててしまうように指示を受けています。しかし、猫のマイクロチップを確認するために必要なスキャンは短時間ですみますし、スキャンのために必要な機材は数多くの自治体に寄付されているのです。彼らは面倒くさがって使わないだけなんです」。
イギリスの道路交通法では、自動車で犬をはねた場合、運転手はその事故を通報することが求められています。 そして必ずマイクロチップを確認するためのスキャンが行われることが義務付けられています。
一方、猫にはそういう規則はありません。 しかし猫の死亡事故は年間23万件も報告されているのです。
【役所からの回答】
こういった案件の担当省庁であるイギリスの「環境・食糧・農村地域省」からは、すでにヘレナさんたちの訴えに対する回答が届いています。
「犬でも猫でも路上で発見された場合は、その飼い主を調べるためにスキャンすることになっており、これはすでに各自治体で確立された手続となっております」
「犬については、イングランド、ウェールズ、スコットランドすべてにおいてマイクロチップの装着が義務付けられております。また猫につきましても、飼い主がマイクロチップを装着し、そのデータの更新をすることが推奨されています。猫については義務化するのではなく、飼い主が各自の選択で決めるものであると考えております」。
ヘレナさんはこの政府からの返答に満足していません。
「これでは今までの政府からの反応となんら変わりありません。飼い主たちにとって猫がどれほど大事な存在か、お役人たちは分かっていないのです。しかし議論が行われるようになれば、きっと法律が改正されるはずです」。
【国会への請願】
そこでヘレナさんは国会への請願を行い、猫についても犬と同様のマイクロチップの確認が義務付けられるよう訴えています。
「何千頭もの猫たちが、毎年埋め立て地に運ばれていきます。これは地元の自治体がマイクロチップの確認をやりたがらないことが原因なのです。法律の改正がなければ、彼らは動こうとはしないでしょう」
「役所の担当者は路上で猫の体をスキャンしてマイクロチップの有無を確認していると主張していますが、それは事実ではありません。法改正することで、飼い主たちの知らないところに猫が埋められていた、などということがないようにするべきなのです」
この議会への請願には今まで58,000もの署名が集まっています。しかしイギリス下院で議題として取り上げられるには4月までに10万人分の署名に達する必要があります。
(2019年2月16日時点で58,375件の署名が集まっている)
ヘレナさんたちはフェイスブックやツイッターなどを通して、署名への呼びかけを続け、猫のマイクロチップ確認が義務付けられるまで粘り強く活動を続けています。