「クジラを守る国」カナダの保護政策により2018年には事故死なし 世界に411頭の絶滅危惧種

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タイセイヨウセミクジラは、その名前の通り大西洋、とくに北大西洋に暮らすクジラの一種です。

 

このクジラは2018年のあいだ、1頭も事故死することがありませんでした。 これはカナダ政府による徹底的な保護策が功を奏した結果だったのです。

 

 

 

【世界でわずか411頭】

タイセイヨウセミクジラはすでに絶滅危惧種に指定されて長い時間がたちますが、現在確認されているだけでわずか411頭しか生息していないと言われています。 これはカナダ沖だけではなく、全世界で411頭だけです。

 

その内訳もメスの頭数のほうが少なくなっており、繁殖が期待できなくなっている状況なのです。

 

2017年にはカナダ沖で12頭の死亡が確認され、タイセイヨウセミクジラの記録が始まって以来最悪の事態となりました。

 

これを受け、2018年にカナダ政府はクジラたちのための環境保護活動に乗り出したのです。

 

【海洋船舶との衝突事故を防ぐ】

クジラたちの死亡原因の最も多いものは、海洋船舶との衝突事故です。 他にも漁業用のロープや網に絡まって動けなくなってしまう事故も起きています。

 

カナダ政府は2018年、クジラと船舶とのあいだに100メートルの保護ゾーンを設けることを決めました。 囲い網についても同じ規定が設けられました。

 

違反者には最大で50万カナダドル(約4千万円相当)の罰金、さらに違反を繰り返した場合には禁固刑の可能性という厳しい罰則も決められています。

 

また海上にもうけられた保護ゾーンを通行する船舶は、スピードを10ノット(時速約18.5キロ)にまで下げることが求められます。

 

スピードを遅くすることで、クジラとの衝突の可能性を低くすることが出来るだけでなく、船の発する騒音が小さくなるため、その分クジラが音を感知できる範囲が広がるというメリットもあります。

 

船舶会社はこうした新しい規定に準拠した業務を行うため、航海ルートの変更をせざるを得ませんでした。

 

囲い網漁をする漁業会社にも、政府は新しいルールを課しました。 近くにクジラが泳いでいるのを発見したら、ロープや網をすぐに引き上げなくてはないという規則が設けられたのです。

 

セミクジラの生息域は流動的で、特定するのが極めて難しいそうです。 そのために、どの海域にクジラが現れるかを予測するのも難しいため、安全に囲い網漁ができる場所を特定するのも大変困難であると言われています。

 

近年では、カナダのセントローレンス湾付近でセミクジラが多く目撃されています。 このセントローレンス湾付近は船舶の行き来が大変多いことで知られており、クジラとの衝突の可能性が高まっている場所でもあるのです。

 

【長期的な経済面でのリスク】

こうした厳しいルールが新たに課せられたことで、漁業産業やケベック州ニューファンドランド島の住民たちは不満を募らせています。

 

とくに漁業会社からは、ルールがあまりにも広範囲に及びすぎているので、より細かい線引きをしてほしいとの議論が上がっています。

 

カナダ政府はこうした新しいルールが現地の地元経済に影響を与えていることを認めています。 その一方で、2019年も同じルールを適用し続けるとも述べています。

 

政府高官の一人は「こうしたルールがカナダの大西洋側の漁業産業に大きなインパクトを与えていることは確かです。しかし、タイセイヨウセミクジラを適切に保護しなかった場合に想定される、長期的な経済面でのリスクのほうがはるかに大きいのです」と述べています。

 

もちろん、たった一年間事故死がなかったというだけで、このタイセイヨウセミクジラが絶滅の危機を脱するわけではありません。今後もこのクジラが生息数を回復してくれるよう願うばかりです。

 

同時に、日本が「クジラを捕る国」として国際機関から脱退した年に、「クジラを守る国」カナダは積極的な行動でクジラたちの生活・生命を守っていたということを、知っておくべきことだと思います。

 

 

 

出典:

No North Atlantic right whales killed in Canadian waters in 2018 | World news | The Guardian

Assessing vessel slowdown for reducing auditory masking for marine mammals and fish of the western Canadian Arctic - ScienceDirect