クジラの体内から大量のプラスチック片が発見される 動物だけでなく人間にも迫る汚染の危機
2018年11月中旬、インドネシアの東海岸にクジラの死体が打ち上げられました。
クジラの死体が打ち上げられるのはとくに珍しいことではありませんが、この死体を解剖したところ、きわめてショッキングな事実が判明しました。 このクジラの胃の中からビーチサンダルや115個のプラスチックコップなどが出てきたのです。
【約6㎏のプラスチックが体内に】
インドネシアには数多くの国立公園があり、ここ南東スラウェシ州にある「ワカトビ国立公園」はその一つです。
ある日この公園内にある海岸をパトロールしていた環境管理担当者が、人だかりを発見。 現地の住民たちが大きなクジラの死体を取り囲み、中にはその肉を切り取ろうとしているものまでいたそうです。
クジラの死体は9.5メートルあり、マッコウクジラの一種であると見られています。
WWF(世界自然保護基金)が調べたところ、体内から約5.9㎏のプラスチック廃棄物が発見されました。
115個のプラスチックコップ、4本のプラスチックボトル、25枚のプラスチック袋、ビーチサンダル2足、ナイロン製のバッグ、その他1000個を超すプラスチック片がその中身でした。
WWFでは、必ずしも胃の中の大量のプラスチックが死亡原因とは言い切れないとしています。 発見されたときすでにクジラの死体は腐敗が進んでおり、直接の死因を特定するのが難しい状態だったからです。
2億6,000万人が暮らすインドネシアは、世界でも中国に次いでプラスチック汚染が進んでいる国です。
正しく処分されないプラスチック廃棄物は年間320万トンにも及び、そのうち129万トンが海に流れ込んでいる、という調査結果が雑誌「Science」に発表されています(2018年1月)。
インドネシア政府では啓蒙活動をすすめており、2025年までにプラスチックの使用量を70%減らすことを目標としています。
【アマゾンの真水に暮らす魚たちも】
これは東南アジアの海水だけの話ではありません。
2018年11月に発表された研究結果では、南米のアマゾン流域の真水もプラスチックによって汚染されていることが判明しています。
この調査はブラジルを流れる「ジングー川」(アマゾン川の支流)に暮らす魚を対象に行われました。
もともとこの調査では、魚たちがどのような餌を食べているのかを調べるのが目的で始められました。 しかし調査を進めるにつれ、対象となった魚の80%からプラスチック片が発見されると言う結果が出たのです。
(アマゾンの魚の体内から発見されたプラスチック片の一部)
ジングー川には雑食、草食、肉食の魚が暮らしており、また魚の大きさも多種多様で、長さが4cmのものから人の足の大きさのものまで、重さは2gから1㎏のものまで暮らしています。
体内から発見されたプラスチック片は、袋やボトル、釣り用具などに使われているプラスチックであることが分かっています。
【人間も同じ危険あり】
以前このブログで、「野生のピューマが中毒死 ネズミの駆除剤が食物連鎖の頂点にまで達した惨たらしい結果」という記事を紹介しました。
駆除剤が体内に入った状態のネズミが、まだ死んでしまう前にネコやキツネに食べられ、そのネコやキツネは大型の肉食動物に食べられる・・・ということを繰り返し、最終的にその地域の食物連鎖の頂点にいるピューマの体内に駆除剤の毒物が蓄積されてしまう、と言う話でした。
これは海や川のプラスチック汚染でも当然起こります。
草食動物の魚たちが藻などにこびりついたプラスチック片を体内に入れてしまい、すでにそういった魚たちを食べているピラニアなどの胃の中からもプラスチック片が発見されているのです。
さらに、魚たちは食物連鎖の低いところにいる動物です。 魚を食べる他の動物たちが数多くいる、ということになります。
この「他の動物」の中には、人も含まれます。
実際、アマゾン流域で暮らす人たちは川で暮らす魚たちを日常の食卓に上げています。 つまり、プラスチック片の含まれた魚を人が食べていることになるのです。
冒頭の、インドネシア沖で打ち上げられたクジラの体内からプラスチック廃棄物が大量に見つかったというニュースは、決して「かわいそうな動物エピソード」で終わる話ではありません。
私たち人間も同じ危険にさらされている、一刻の猶予も許されない問題なのです。
Indonesia: dead whale had 1,000 pieces of plastic in stomach | Environment | The Guardian
'Sad surprise': Amazon fish contaminated by plastic particles | Environment | The Guardian