やはりドローンによる野生動物撮影は悪影響あり 子グマが崖を滑り落ちてしまう動画が話題に

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2018年11月初め、クマの親子が雪に覆われた崖をよじ登る様子をとらえた動画がネットで話題になりました。

 

しかしその直後、実はこの動画を撮影したドローンが親子を威嚇してしまった可能性がある、という指摘がありました。

 

近づいてきたドローンを警戒したことが原因で、子グマが何度も雪の崖を滑り落ちしてしまったと見られており、激しい批判の的となったのです。

 

【事実上の動物虐待】

この動画はドミトリー・ケドロフという人がこの夏、ロシアのマガダン州で撮影したものだとされています。

 

しかしこの動画を観た人の中には、「なぜお母さんグマは、これほど危険な崖をまだ幼い子グマを連れて歩こうとしているのだろう?」という疑問が沸き起こってきました。

 

専門家たちは、2頭のクマは身の危険を感じたため、ふだんは歩かないような場所に行かざるを得なかったのではないか、という指摘をしています。

 

その「身の危険」というのが、自分たちに接近してきたドローンが原因だろうと専門家たちは見ています。

 

下に貼り付けた動画で1分10秒のところになると、ようやく子グマが親グマのいるところによじ登り始めました。

 

しかしその瞬間、この様子を撮影しているドローンが親子に急接近します。

 

すると親グマは近づくカメラの方を向き、威嚇するような動きをし、続いて右前脚で子グマを払いのけるような仕草をするのです。

 

自分に向かってドローンが近づいてくるため、子グマに「離れなさい」と伝えたように見えます。

 

すると、あと少しのところまで来ている子グマがそのまま崖の下に滑り落ちてしまうのです。

 

 

ネット上では「何度失敗しても、がんばってやり遂げた子グマ」をとらえた動画として拡散され、「あきらめない姿に感動」というような声が上がっているようです。

 

しかし、上記のような専門家の指摘をもとに見直してみると実に残酷な場面がとらえられており、「動物虐待動画」と言っても言い過ぎではないように感じます。

 

【動物へのストレス】

ドローンが野生動物に与える影響を研究してきたソフィー・ギルバートさんは、この動画撮影方法の無責任なやり方を批判しています。

 

ギルバートさんは、ドローンは動物たちにとっては「文字通りUFO」のようなものだと言っています。

 

動物たちから見ると、一体何が自分たちに向かって近づいてきているのか全く分からないのです。

 

またドローンは比較的大きな音を立てて飛ぶため、その騒音もまた動物たちの日常生活をかき乱してしまうことが分かっています。

 

もちろん、ドローンの存在に影響を受けにくい動物がいることも事実です。

 

2017年に「ハクガン」という鳥についての研究結果が発表されました。

 

調査の対象となったカナダのマニトバ州に生息するハクガンは、「人の乗っていない飛行物体」が現れても「最小限の混乱」だけを引き起こす、ということが判明しています。

 

しかし同時に、動物たちがそのの行動に変化を見せない場合でも、やはりストレスを感じているということも分かっているのです。

 

2015年に発表された研究では、クマの体に心拍計を取り付けて心拍数の変化を観察しました。

 

すると、ドローンが上空を飛んでいるときにクマはとくに体を動かしはしませんでしたが、心拍数は急激に上昇していることが分かったのです。

 

記録された中で最も顕著な変化は、毎分41回の心拍数が、ドローンが上空を通過しているときには毎分162回まで急上昇していた、というものもありました。

 

【素人のドローンは利よりも害が大】

今のところ、ドローンを野生動物の観察に使うことを全面的に禁止すべきだという意見はそれほど強くないようです。

 

動物たちの観察をする際、とくに身近で観察できない動物については、今後もドローンが活躍することが期待されています。

 

例えば、北極に暮らすイッカクや熱帯雨林の木の上を住みかとするオランウータンなどは、ドローンを利用した観察が効果的だと見られています。

 

しかしその場合でも「動物に向かって正面に飛ばしたりしない」「動物からできるだけ遠くに浮遊させる」「小型で電動のモデルを使う」(ガソリン稼働のドローンは大型で音も大きくなるため)「絶滅危惧種の撮影には使用しない」「動物が敏感になっている繁殖期などには使用しない」といったルールを守ることが求められます。

 

さらには、動物の専門家以外は野生動物に対してドローンを使うべきではない、というもっともな意見もあります。

 

これからもドローン自体は次々と開発が進むことが予想され、将来は野生動物たちに悪影響を及ぼさない機材が使えるようになるかも知れません。

 

しかし現時点では、動物の習性を本当に理解している専門家でない限り、ドローンの使用は「利」よりも「害」のほうが大きいと考えたほうがいいのかも知れません。

 

 

 

www.smithsonianmag.com