野生のピューマが中毒死 ネズミの駆除剤が食物連鎖の頂点にまで達した惨たらしい結果
2014年、カリフォルニア州ロサンゼルス。
動物学者たちは、野生動物たちを遠隔で観察するために設置したカメラの映像をチェックしていました。
その映像に、ある1頭の病気にかかったピューマがいることに気づきました。
このピューマは研究者たちが「P-22」と名付け、すでにその生息が特定されていたものです。
その1年前にも観察されていて、そのときは活発に動き、力強く、有名な「Hollywood」の大きな文字がおかれている山の中をエサを求めて歩き回っていたのが確認されていました。
その山の下を走る自動車道を元気に横切る様子も目撃されていたのです。
しかし今、そのピューマは毛がどんどんと抜け落ちてしまっており、見た目もボロボロになっていました。
すでに死を目前としているように見えるほど衰弱していたのです。
【ピューマだけではない】
その原因は、ネズミ駆除剤でした。
幸運にも、このピューマは専門家たちによって捕獲され、治療を受け、今は全快しました。
しかしこのピューマ「P-22」を襲ったネズミ駆除剤による害は、数年前からボブキャットやコヨーテなどにも発見されてた事象でした。
(治療を受けるボブキャット)
アメリカ政府の国立公園局が2002年に行った調査では、調査対象となった13頭のピューマのうちの12頭について、体内からネズミ駆除剤が原因の化合物が検出されました。
この結果から、本来であればネズミ駆除剤のターゲットではないはずの肉食動物たちが中毒症状に苦しみ、それが数多くの病気や死亡の原因になっているということが判明したのです。
【食物連鎖の頂点】
これらの動物たちの体内からもっとも発見されるのは「抗凝固薬」と呼ばれる薬物です。
この薬物がネズミなどのげっ歯類の体内に入ると、血液の凝固作用を阻止してしまうため、内出血が止まらなくなって死んでしまいます。
ネズミによってはすぐに死に至りますが、中には抗凝固薬が体内に入ったあとでも最長10日間ほど生き延びる場合もあります。
その間、ネコ、キツネ、アライグマなどが捕食し、これらの肉食動物もまた抗凝固薬を体内に取り込んでしまいます。
最終的に、この薬物がその地域の食物連鎖の頂点にまで至ることになるのです。
カリフォルニアの大自然の場合、地上ではピューマ、鳥類ではタカがいわゆる「最強」の肉食動物たちです。
薬物中毒がもっとも頻繁に引き起こしてしまうのは「かいせん(疥癬)」と呼ばれる、毛が抜け落ちてしまう症状です。
これは薬物による免疫システムの破壊によって引き起こされることが分かっています。
専門家たちは、ピューマたちが中毒にかかったコヨーテを捕食したのが直接の原因だろうと見ています。
ピューマなどの肉食動物は、獲物を捕らえるとまず最初に内臓を食べます。
そのときに当然のことながら肝臓も食べてしまいますが、肝臓という器官は体内の毒がもっとも蓄積されるところなのです。
最近では、「P-41」と特定されていたピューマが死んでいるところが発見されました。
(元気だったころのP-41)
このピューマもやはりネズミ駆除剤の化合物が体内から発見されました。
しかも合計6種類の化合物が発見されるという、それまでにはない異常な状態だったことが分かりました。
【想像の及ばないところに与える影響】
ネズミに悩まされ駆除剤を使った人たちも、まさかそれが山奥に暮らす野生のピューマの命を奪ってしまうとは想像すらしなかったでしょう。
専門家たちは、どの種類の駆除剤を使うかという問題ではなく、駆除剤以外の方法で対処することを訴えています。
つまり、駆除剤を使わないことが野生に暮らす肉食動物たちを中毒から守る唯一の方法だということです。
たとえばカリフォルニア州の自然では、フクロウがたくさん生息しています。
こういったフクロウたちが暮らせる木箱を樹木に取り付けてあげると、フクロウがそこを拠点にエサを捕るようになります。
フクロウは優しく穏やかな顔をしていますが、ネズミなどを捕食する肉食動物ですので、少なくともネズミの増加は抑えられるだろう、というのが専門家たちの提案内容です。
私たちの日本でも、ピューマは直接関係なくとも、同様の状況は想定できます。
たとえ都会の住宅街であっても、ネズミやゴキブリの駆除剤が野良ネコたちの体内に入り込んでしまうこともあるわけです。
もちろん、ネズミやゴキブリを繁殖し放題にしておけばいい、という訳ではありません。
これら生命力の強い動物(昆虫)たちを放置しておくと衛生面での問題につながるため、何らかの対応は必要になるでしょう。
しかし私たちが安易に使う化学物質が、全く想像の及ばないところに影響を与える可能性がある、ということは知っておくべきだと思います。