アフリカで頻発するロバの殺害 生薬のもととして中国からの需要増加が原因
ケニヤに暮らすアンソニーさんは水の運搬業を営んでいます。
彼はこれまで4年にわたって1頭のロバといっしょに仕事をしてきました。 ロバは交通事情の発達していない地域では、有力な輸送手段として活躍してくれている動物です。
家を借りて家族といっしょに暮らしているアンソニーさんは、家賃にくわえて二人の子供の学費を支払い、家族を養っていかなくてはいけません。 そんな彼の仕事をロバはずっと支えてくれていたのです。
しかしある朝、ロバがいなくなっていました。 あわてて探したアンソニーさんが発見したのは、すでに殺害され、無残にも皮がはぎ取られたロバの死体だったのです。
水の運搬という仕事はロバがいないとできないため、いまは別のロバをレンタルして仕事を続けています。
しかし売り上げの半分をロバの持ち主に支払わなくてはいけないという契約になっているアンソニーさんは「家賃も学費も払えません。でも私には養わなければいけない家族がいるのです」と自分の状況を語っています。
【ロバを殺してどうする?】
現在ケニアではロバの皮の需要および価格が急騰しています。 最近ケニア国内に3つの加工工場ができたことも、その価格高騰の後押しをしていると見られています。
ひとつの工場で一日に150頭の動物を処理できることになっており、肉のパッキングや冷凍、皮のなめし加工を行っています。 捕まえられ工場に運び込まれたロバたちは頭部に高圧電流銃をあてられ、気絶したところを人の手によって肉と皮に切り分けられます。
3つの加工工場のうちのひとつを経営するジョンさんは、自分がケニアで最初に加工工場の公式な許可を得た業者だ、といっている人です。
「昔はロバの売買が行われている市場なんかなかったんです。子供の養育費のためにみんなウシやヤギを売っていました。でも今はウシよりもロバを売る人のほうが多いんですよ」。
【中国で生薬に加工されるロバの皮】
ジョンさんはまた、加工したロバの皮の購入者は中国であると述べています。
「中国のおかげなんです。以前はロバなんか持っていても全く金にならなかった。でもいまはロバのおかげで多くの人が潤っているんです」。
中国人のバイヤーはこの工場で、パッキングなどが正しく行われているかどうか作業プロセスをチェックしています。
彼らが購入したロバの皮は茹で上げれら、そこから茶色い色のゼラチンが生成されます。 これは「阿膠」(あきょう)と呼ばれ、生薬の一種として知られているものです。
中国政府の発表した数字によると、1990年には1,100万頭を数えた中国国内のロバの生息数が、今は300万頭にまで減っています。 ロバは繁殖に時間のかかる動物であるため、中国国内の需要はほかの国にその「供給源」を求めているのです。
【中国への輸出を禁ずる国も】
こういった加工工場でのロバの扱いが大きな批判の的になってきました。
加工されるために殺されるのを待っているロバたちは、死んだ後に皮をはぎ取りやすくするためにあえてエサを与えずに餓死させることもあるそうです。また高圧電流で気絶させるのではなく、こん棒で殴りつけて殺すという残虐な方法が行われている加工工場があることも判明しています。
こういった状況に対して世界各国から非難の声が寄せられており、すでにその効果があらわれているところもあります。
ウガンダ、タンザニア、ボツワナ、ニジェールなどのアフリカ諸国では、すでに中国へのロバ製品の輸出を禁じています。
これはロバの動物虐待を防ぐということだけが目的ではありません。 カネ目当てで家畜のロバにまで手を出す人が出てきたせいで、冒頭のアンソニーさんのように一般市民の生活まで脅かされる事態が頻発しているからです。
その一方で、アフリカのみならずブラジルやペルーといった南米でもロバの乱獲は問題になっています。今の段階では決して解決の光が見えてきているわけではないのです。