井戸に落ちたヒョウ救出をとらえた一枚の写真とインドで頻発する動物との衝突

 

 

2012年7月、インド西部のマハーラーシュトラに住むボーラさんのもとに、電話がかかってきました。 ヒョウが井戸の中から出られなくなっている、という連絡でした。

 

ボーラさんの職業は学校の先生ですが、野生動物を専門に撮影する写真家でもあります。これまでもインドの林野庁が行う野生動物の救出現場に立ち会い、シャッターを押してきました。

 

これは、このヒョウ救出のときにボーラさんが撮影した写真です。

 

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Sanctuary Wildlife Photography Awards 2017

 

「井戸」といっても農業がおこなわれている地域の井戸ですので、むしろ貯水池のイメージのようです。

 

現地の村人たちによると、林野庁の救助隊が駆けつけたとき、すでにヒョウは25時間にわたって井戸の中におり、その間ずっと溺れないように泳ぎ続けていたそうです。

 

雨が降っていたので、村人たちはできる限り雨水が井戸の中に流れ込むように工夫しました。井戸の中の水量を増やして水面を高めてあげれば、そこに浮いているヒョウが地上に脚をかけられる可能性があったからです。

 

しかしそれも上手く行かないまま時間ばかりが過ぎてゆき、救助隊が到着したときには「息絶えるのも時間の問題だろう」と見られるほどヒョウの呼吸は激しくなっていたのです。

 

そこで救助隊のリーダーは、救助そのものを始める前に、まずヒョウを休ませてあげることに決めました。

 

村人たちの協力のもと、木材を組み合わせた板に2本のタイヤを結び付け、それを井戸の中に下ろしていきました。ヒョウがうまくその上に乗ると、数人でその板が沈まないようにロープを持ち続け、その間に他の人たちが「チャーポイ」と呼ばれるインドのベッドを運んできました。

 

チャーポイを運び込むまで1時間半かかりましたが、そのあいだヒョウはタイヤのついた板の上で休んでいて、チャーポイがおろされるとヒョウはそれに飛び移りました。

 

「ベッドが引き上げられるあいだ、ヒョウはじっとその上で待っていました。しかし井戸の縁まで上がってきて地上に近づくや否や、ヒョウは飛び越えて森の中に走り去っていったんです。わずか数秒の出来事でした」。

 

【5年後に写真賞を受賞】 

このたび、この写真が2017年の「Sanctuary Wildlife Photography Awards」という賞を受賞しました。

 

しかし冒頭で述べた通り、このヒョウ救出は2012年に起きたことです。

 

なぜ5年も経ってからこの写真が選ばれたのでしょうか?

 

それには、今インド各地で発生している人と野生動物との衝突に対して、みんなの意識を高めたいという思いがあってのことでした。

 

この地域にはヒョウのほかにもハイエナ、キツネなどが生息しています。

 

こういった肉食動物たちが獲物を追いかけているうちに地元の農家が栽培しているサトウキビ畑に入り込んだり、また飲み水を求めて井戸の近くにやって来たりすることが多くあります。

 

ボーラさんの写真に写されたヒョウの救出は人にとってもヒョウにとっても安全にことが運びましたが、必ずしもいつもいい話ばかりとは限らないのです。

 

2016年11月、ヒョウが一人の少女を襲って殺してしまう事件がありました。それに対して村人たちはワナを仕掛けてそのヒョウを捕獲、檻に入れたうえで火をつけて焼死させる、という事件に発展してしまいました。

 

また2016年2月には、インド南部の都市バンガロールの学校にヒョウが現れるという事件がありました。このときはヒョウを麻酔銃で眠らせ、森林にまで連れて行きましたが、捕まえようとした大人6人が負傷するという事件になりました。

 

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Indian leopard injures six in Bangalore school - BBC News

 

今回のヒョウ救出が行われた州の都市では、今年だけでも2人の子供がヒョウに殺されています。

 

【避けられるはずの衝突】 

近代化が進むにつれて、動物たちの生息地にまで人が家を建てたり工場を建設したりするため、ヒョウだけでなくゾウやトラなどの野生動物も食べ物を求めて人の暮らす地域に入り込んできてしまうのです。

 

今ここで「動物が入り込んできてしまう」という言葉を使いましたが、これは人の立場での言い分でにすぎません。動物の立場からみれば、これまで自由に暮らしていた場所に人が勝手に入ってきた、ということになるでしょう。

 

住み分けさえハッキリしていれば、人と野生動物が衝突して事件・事故になる確率は圧倒的に減らせるといわれています。

 

今回のヒョウ救出に取り組んだ専門家も「ヒョウが人を(食べるために)獲物として襲うことはありません」と訴えています。

 

無暗な開発を続けていくと、避けることができたはずの動物との衝突を引き起こしてしまう ー この写真が5年たった今あらためて注目され、問題提起をしているのはこういうことなのだと思います。

 

 

 

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