密猟だけではない チーターが絶滅の危機に追い込まれたもう一つの理由

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アジアチーターは、かつてはインドからトルコ、アラビア半島に至るまで、広い地域を生息地として暮らしてきた動物です。

 

2010年、イランにある国立公園や野生動物保護区内に数々のカメラを設置し、このアジアチーターの生息数を集計する試みが行われました。

 

写真を精査してみると、気になることが指摘されました。

 

同じオスのチーター1頭が18か所の写真すべてに写っていたのです。

 

それらの写真は最大60キロメートルほど離れたところに設置されていた別々のカメラがとらえたものでした。

 

それにもかかわらず、複数のカメラが同じチーター1頭のみをとらえていたのです。

 

この地域はチーターの獲物となる有蹄類(ゆうているい)が数多く生息している場所です。

 

チーターにとっては追いかける獲物がたくさんいる場所ですから、本来であれば複数のチーターが獲物を求めて行き来する場所のはずでした。

 

そんな場所にもかかわらず、1頭のチーターしか生息が確認できなかったという事実に専門家たちは注目したのです。

 

 

【人の手による生息地の分断】 

これはチーターを取り巻く典型的な問題を浮き彫りにしています。

 

それは、人間による野生動物の生息地の分断です。

 

高速道路、フェンス、建築物などが野生動物の生息地に入り込んでしまったことで、今までは大きな一つの地域であった場所が、複数の小さな場所に切り分けられてしまっているのです。

 

これは当然のことながらそこを生息地とするすべての野生動物にとって問題ですが、とりわけ広範囲を走り回って獲物を捕らえるチーターのような動物にとってはより大きな問題となります。

 

チーターが獲物とするのはバイソンやオオジカなどといった「移動性野生動物」たちです。

 

これらの草食動物は天候や季節の変化に合わせ、食べる植物を求めて群れで移動します。

 

それを追うチーターも、おのずと狩りをする場所を変えることになります。

 

しかし人の手によって場所が分割されてしまった結果、そのような自然な移動が不可能になってしまったのです。

 

 

【チーターだけではない 生息地を分断される動物たち】

アメリカのロサンゼルスでは、ピューマが同様の状況に追い込まれています。

 

やはり高速道路や一般道がたくさんつくられたせいで、以前に比べてはるかに狭い生息地域に閉じ込められてしまっています。

 

そのためピューマたちのあいだでは同種交配が増え、遺伝子レベルでの問題に発展していると言われています。

 

またトランプ大統領がメキシコとの国境に建設するといっている「国境の壁」も、この地域に生息するジャガーの行動範囲を制限してしまうことになるため、動物愛護団体から批判が出ています。

 

 

【密猟と交通事故】

18か所の写真すべてに写っていたオスのチーターが最後に目撃されたのは2014年。

そのときは約10歳になっていたと推測されます。

 

平均寿命から考えて今はすでに死亡している可能性も高く、その場合この地域にはチーターが1頭も生息していないだろう、と専門家は語っています。

 

現在イランで確認されているチーターの生息数は(専門家の集計方法によって異なりますが)50頭とも100頭ともいわれています。

 

狭い生息地域に閉じ込められているチーターが移動のため無理やり道路を渡ろうとし、交通事故に巻き込まれる事例も多く発生しています。

 

2011~2012年のあいだにこの地域で確認されたチーターの死亡数は42件。

そのうち12件が交通事故でした。

 

一方、死亡原因として最も多かったのは「違法業者による密猟」と「地元の酪農家たちが家畜を保護するために行った射殺」という人の手による殺害で、42件中20件が該当します。

 

依然としてチーターの毛皮を求める闇市が存在し、そこに売り飛ばすための密猟が横行していることも無視できないことです。

 

 

 

www.smithsonianmag.com