あまり知られていないカバの習性 そんなカバと上手に共生する南アフリカの農家

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カバは大人しくて優しい動物だと一般に思われがちです。

 

私たちが子供のころに読む本などにカバが出てくると、のんびり屋で、同じ場所から動かずにあくびをしながら世の中の様子を眺めている、優しいおじさんのような存在として描かれていることが多い気がします。

 

事実、鋭そうには見えない顔つきや、ぽってりと太ったお腹、短い脚でのそのそと歩く様子などを見ると、このような本の中のイメージが正しいように感じてしまいます。

 

しかし、実際のカバの習性はだいぶ異なるようです。

 

【カバの意外な一面 ①「あくび」】

カバというとその大きな口を全開する「あくび」が思い出されますが、これは眠いとか退屈していることが原因のあくびではなく、威嚇のサインであることが分かっています。

 

また、笑うように聞こえる声を出すこともありますが、これもまた威嚇のサインと言われています。

 

カバにとってあくびや笑いとは、人間の場合とは全く逆の意味合いを持っているようです。

 

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【カバの意外な一面 ②「肉食」】

カバが草食動物であるというのは、少なくとも分類上の話にすぎないようです。

 

オックスフォード大学の研究生がアフリカのタンザニアで80頭を超えるカバを観察し続けたところ、インパラ、アンテロープ、ヌー、バッファローなど、大型の動物を襲い、エサとして食べているのを目撃した、というレポートがありました。

 

また、他のカバの死骸を食べる習性がある、という調査結果も発表されています。

 

【カバの意外な一面 ③「人を襲う」】

カバがわざわざ人のいる場所に出てきて、人を食べるために襲う、ということはありません。

 

しかし水辺でのんびりしているカバの邪魔をしたため、カバを怒らせてしまい、結果として襲われることになった例がいくつか報告されています。

 

2014年にはアフリカで、13人乗りのボートがカバによって転覆させられ、乗組員が水中に投げ出されるという事故が起こっています。

 

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また、たまたま人の住む場所に迷い込んだカバが、ばったりと出くわしたある夫婦襲って殺害した、という事件もありました。

 

【カバが肉を食べる理由】

通常の草食動物は門歯が発達しており、草を噛み取りやすくなっています。

 

しかしカバの場合は門歯に加え犬歯も発達しており、この犬歯は他の動物を攻撃するために発達したと考えらえています。

 

そのため、草食動物としては極めて例外的な特徴を持っているのです。

 

しかし、基本的にカバが草食動物であることは間違いありません。

 

実際、カバの内臓は肉を消化するのには適していないことが分かっています。

 

またその体も、地面に生えた草を食べるのに最適な体型をしているといわれています。

 

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野生の草食動物は、自然の草、根、果実などを十分に食べていても、何らかの栄養素が足りない時には動物性のエサからそれを補おうとします。

 

ゴリラやオランウータンは基本的に草食動物でありながら、時々アリなど小さな昆虫を食べて栄養のバランスを保ちますが、カバも同じことをしているわけです。

 

【長距離を歩くカバ】

昼間は水辺で寝そべったり、水の中に体を沈めて目と鼻だけ出して動かなかったりと、のんびりしているイメージのある動物ですが、夕方から夜にかけてはエサとなる草を求めて長距離を歩くことが分かっています。

 

長い場合は1.3㎞もの距離を移動するといわれています。

 

このため、ふだんは人里離れた場所に生息しているカバも、エサを求めて農場などにあらわれてしまうことがあるのです。

 

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南アフリカ共和国の農家では電気フェンスなどを用意し、カバを寄り付かせないための対策を適宜行ってきましたが、その対策にも限界があり、「人 vs. カバ」の対立が激しくなってきました。

 

しかし地元の農家たちはここで名案を思い付き、事態を望ましい解決へと進めることができたのです。

 

【カバとの共生

地元の農家は、地面に植えてある野菜はどんな対策を講じてもカバに食べられてしまうため、思い切って野菜の栽培をやめてレモンの木を植え、レモン栽培の専業に転じたのです。

 

カバは木に登って葉や実を食べたりはしません。

 

また、木の周りに伸び放題となっている雑草をカバがエサとして勝手に食べてくれるため、除草剤などを使う必要がなくなりました。

 

さらには、木に登ってレモンの実を食べてしまうほかの動物たちも、木のまわりをうろついているカバを恐れて寄り付かなくなったため、小動物による被害も格段に減ったのです。

 

加えて、昼間にカバが近くの川で水浴びをし、その周りにフンを落としていきますが、そのフンのおかげで土地の生態系が活性化され、農作物や川にすむ生物に有益に働くという思わぬ「収穫」も発見されています。

 

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冒頭に述べたような、カバの予想外の習性や農作物を荒らすなどの行為のため、カバを害獣と見なし殺害する例が多くありました。

 

そのためカバもまた、絶滅危惧種に指定されています。

 

その一方、カバの習性についての理解を深め適度な距離を取ることで、このレモン栽培のように、現地の人たちがカバと上手く共生できている例も出てきているのです。

 

BBC - Earth - Why you should beware a laughing or yawning hippo