トナカイの鼻と眼 赤くはないけど人を超えた機能の持ち主
クリスマスが近づくと最もよく目にする動物は、サンタクロースのそりを引いて走っているトナカイかもしれません。
外に出ると「赤鼻のトナカイ」のメロディーもしばしば耳に入ってきます。
ところで、トナカイの鼻は本当に赤いのでしょうか?
実際は「赤鼻のトナカイ」というのは存在せず、伝承文化に過ぎない、といわれています。
【特殊な機能をもつトナカイの鼻】
見た目はほかの哺乳動物たちと同じく黒い鼻をしていますが、機能面ではトナカイの鼻はとても興味深いものを持っています。
たとえば-30℃の寒さの屋外に人がいたら、鼻からは蒸気が吹き出るのが見えるはずです。
トナカイが冬を過ごす北国も-30℃ほどになりますが、トナカイの鼻から蒸気が吹き出ているのは見えないそうです。
人の鼻の場合、体内から鼻へ流れる空気の温かさおかげで、鼻は約32℃の温度に保たれるようになっています。
このとき鼻から出される空気に含まれる水分が、氷点下の外気に触れることで、小さな水の粒となって目に見えるわけです。
しかしトナカイは、その大きな鼻の中に温度調節機能を有しています。
体内から送られてきた空気を鼻の中を通す途中で、もとの温度から21℃も下げて冷たくし、それから体外に放出しています。
こうすることで、鼻から吐き出す空気と一緒に自分の体温も放出してしまわないようにしているのです。
また、トナカイの鼻は冬に体温を保持することだけでなく、体温を下げる機能も持っています。
たとえば天敵のオオカミに追いかけられ体温が上昇したときでも、この鼻を使って体温を下げることで、適正なレベルにまで近づけることができるのです。
このように、進化の過程で得られた体の機能により、人の場合はエアコンに頼らなければならないことでも、トナカイならば問題なく解決できることが分かっています。
【眼にも驚くべき機能あり】
トナカイの生息地域(北極圏)は、冬になると太陽がほとんど見えなくなります。
冬になると毛が生え変わる動物はたくさんいますが、トナカイの場合、毛皮だけでなく眼の網膜の色まで変えてしまうことが分かっています。
夏のトナカイの眼にある網膜の色は金色をしています。
これはネコなどの夜行性の動物に多くみられる特徴です。
しかし冬になると、トナカイの網膜は濃い青色に変わります。
網膜の色が青になることで、眼から逃れてしまう光の量を少なくする効果があります。
その結果、太陽の光がほとんどない冬の自然界でも、十分な光の量を保ち、暗い中でもものの形をとらえることができる、と考えられています。
今のところ、季節によって網膜の色を変える動物は、トナカイ以外発見されていません。
また、青い網膜を通して見ることで、私たち人間には見ることのできない紫外線も識別することができます。
その結果、色のコントラストがよりハッキリして見えているのです。
冬になると地面は雪に覆われてしまいますが、トナカイはその中から食べ物を探さなくてはいけません。
トナカイはコケなど岩に張り付いている植物を食べます。
コケは紫外線を吸収しますが、逆に雪は紫外線を反射するため、紫外線を見分けることができるトナカイの眼には、ほんの少しでもコケ類が雪の間から見えるだけで、容易に発見できるわけです。
こうした眼の特殊な機能のおかげで、トナカイは厳しい冬でも食べ物にありつけることができるのです。
【ここでも人間による影響が】
しかし、近年はトナカイの生息地近くにも人が住んだり、周りが倉庫や工場用地として利用されたりしています。
その結果、今までは冬になるとかすかな自然の光しかなかったトナカイの生息地にも、今は人口の光が差し込んでしまうようになりました。
冬の自然な暗さがなくなりつつあるため、トナカイの眼が「冬の青い眼」へ自然と切り替わりにくくなっている、という指摘をする専門家もいます。
(BBC - Earth - Why reindeer noses are more amazing than you think)