チンパンジーから受け継いだ「殺し合い」の習性と進化した人のとるべき行動

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先日、京都大学などの研究者たちで編成された調査チームが、タンザニアにある国立公園で野生のチンパンジーを観察し、「重度の先天的障害のある赤ん坊が2年近く生存した」という実例を発表しました。

  

母親が子育を放棄し見捨てられてしまう可能性もあったなか、この赤ん坊は過去2年間にわたり母親や姉妹などに手伝われて生き延びることができたのです。

 

研究者は「障害者などの弱者をケアできる人類社会の進化基盤を考察する上でも重要な観察事例」としています。

 

弱者保護、障害者支援といった価値観を共有して人間社会で行われていることは、類人猿から受け継いだものという見方を提示する発見です。

 

チンパンジーは最もヒトに近い動物といわれています。

 

チンパンジーとヒトに共通に見られる行動や習性は、ヒトが類人猿から受け継いだものである、と一般的に考えられるようです。

 

 

【チンパンジーも「戦争」する?】

同様のことは「集団で戦う」という行動にも当てはまるかもしれません。

 

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1960~70年代にかけて、同じくタンザニアに生息するチンパンジーを観察していた研究者は、チンパンジーが食料を求めて争いを行い、その結果、仲間のチンパンジーを殺害した、ということを発見したのです。

 

二つのグループ間で発生したこの争いは、大きいグループが小さいグループの領土に巧妙に入り込み、「敵」グループのチンパンジーを見つけると殴り殺してしまう、という残酷なものでした。

 

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そして調査を進めてゆくうちに、さらにショッキングなことが分かってきました。

 

この二つのグループは、その数年前まではひとつのグループとして行動していたことがあり、かつては一緒に行動し、一緒にエサを食べていた仲間同士が殺し合いをしていたという事実です。

 

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この研究者は、この事例がチンパンジーの社会でふつうに行われていることなのか、それとも事件的性質を持つ珍しい事例なのか、判断できませんでした。

 

 

【「殺しあう」性質は先天的なもの?】

かつてアメリカの文化人類学者は、チンパンジーもヒトも先天的に相手の命を奪うような争いをする要素を備えている、とする論文を発表したことがありました。

 

自分たちの手元にある食べ物などの生活資源をより安全に確保するために、それを自分たちから奪ってしまう恐れのある同種を襲い殺す、というのは、進化の過程で動物に備わってきた本能である、という議論でした。

 

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この議論への反論もありました。

 

チンパンジー同士が殺し合いをしてしまうという事実はある一方、それは自分の身に危険を感じたり、貴重な食べ物を取られそうになったりしたときに防衛のために戦うもので、その結果、最悪の場合は相手を殺してしまうこともある・・・

 

チンパンジー同士の「戦争」というのは、決してチンパンジーの本能に根ざすものではなく、食糧入手困難な状況など彼らを取り巻く環境の変化が原因となり、同種間の争いに発展してしまう結果である、というのがその反論の主旨でした。

 

しかしこの論旨には賛成意見が多かったものの、決定的な根拠が見つからず、「チンパンジー同士は戦争をしない」という結論のためには不十分でした。

 

   

 

【やはり自然の習性の可能性が高い】

この論争が続くなか、2014年にあらためてアフリカのチンパンジー同士の殺し合いについて詳しい調査が行われました。

 

その調査の結果では、生活環境の変化とチンパンジー同士の殺し合いの発生確率には相関関係がない、という結果が出たのです。

 

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さらには、オスのチンパンジーが自分のグループの領土拡大のために、他のグループのチンパンジーを襲い死に至らしめる、という別の調査結果も出てきました。

 

この論争には決着はついていないものの、現時点では「チンパンジーは自分の利益のために同種を殺害する」習性がある、というのが有力な説となっているようです。

 

冒頭でも述べたように、チンパンジーに見られる習性は、進化の過程で「自然の習性」として私たち人間も受け継いでいる可能性が大きいと考えられています。

 

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では、同種間で殺し合いをする、つまり「戦争する」というのは進化の過程で受け継いだ自然の習性であり、人間の本能に根ざした行動である、と考えなければいけないのでしょうか。

 

現時点ではチンパンジーの習性についてすら明確な結論が出ていないため、それを人間が自然の習性として受け継いだかどうか、断定的なことは言えません。

 

しかし、現時点で入手可能なデータに基づく限り、これを覆せるような材料はないようです。

 

 

【進化した人のとるべき行動】

類人猿から進化したという事実がある以上、私たち人間は殺し合いをする動物であると開き直り、あきらめるしかないのでしょうか。

 

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チンパンジーが同種間で争うという事実は、本能レベルでの人との共通点を示してくれる一方、理性面での完全な違いを表しています。

 

チンパンジーは自分の主張を本能に従って暴力で示しますが、人は理性を使うことができる動物であり、自分の主張を暴力に頼らずに示すことができる動物です。

 

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私たちが「類人猿から進化した動物」である以上、同じ人間に暴力で訴えかけようと心が傾くことがあるのは、やむを得ないことなのかもしれません。

 

しかし同時に「類人猿から進化した動物」だからこそ、チンパンジーたちのように暴力に訴えるのではなく、理性を用い、言葉を使って相手に自分の意思を伝えることができるのです。

 

進化した人間同士は類人猿とは異なる方法で語り合うべきだと、私は思います。

 

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参考: 

重度の先天的障害のある野生チンパンジーの赤ん坊の発見 — 京都大学

BBC - Earth - Do chimpanzee wars prove that violence is innate?