「猫の里親になって可愛がっているのに、なついてくれない」という悩み
このタイトルのような悩みを持った里親さんがいました。
ペットというのは飼い主にとって喜びと幸せのもとであってほしいものですが、必ずしもそう感じられない場合もあるようです。
【エサの食べ方に見る猫の習性】
今まで猫を飼ったことがある人は、他の家で飼われている猫の話を聞いてみると、そのエサを食べるときの行動が違っていることに気付いたことがあるでしょう。
何でもガツガツと急いで食べる猫もいれば、いつもと違うエサを出すと匂いを嗅ぐだけで口にしない猫もいます。
また口にエサをいっぱい詰め込んで、そのまま部屋の隅に移動してからもぐもぐ食べる猫もいるようです。
猫を複数飼っているところでは、他の猫と一緒にエサを食べる猫もいれば、一匹にならないと食べない猫もいると聞きます。
これらの違いは、猫それぞれの過去の経験に基づいて、一匹一匹の頭の中に築き上げられてゆくいわば「くせ」のようなものです。
たとえば拾われた猫の場合、今は優しい飼い主と暮らしていても、路上生活時代は必ずしも毎日エサを食べられたわけではないのです。
そのため目の前に出されたエサがあれば、それがたとえ自分の好みでなくても、食べられる限りお腹に詰め込もうとします。
一方、子猫の時から屋内で飼育されてきた猫は、毎日決まった時間に、決まった場所で、決まった種類のエサが出されるという経験をしていますので、「明日はエサがないかもしれない」などという危機感を持ったことはありません。
いつもと違うエサが出された場合は、戸惑いを覚えるものの、待っていればいつもと同じエサが出てくると思い込んでいるため、目の前のエサには手を出さない、といった行動をすることになります。
このように自分の置かれた「環境」で「経験」したことが積み重なってゆき、この二つがリンクして「習性」が出来上がってゆくわけです。
人であればこれに客観的な知識や情報が加わりますので、「環境」が変わればその結果である「経験」も変わるだろうと予測ができます。
そのため、猫のように「習性」だけでその後の行動が本能的に決まってしまうことはなくなります。
【捨てられたことで出来上がった習性】
今まで見てきたように、猫の頭の中には自分が置かれた環境で経験したことがどんどん積み重なってゆきます。
それほど環境に依存する部分がとても大きい動物です。
そんな猫にとって、捨てられるということは、環境の大きな変化を押し付けられることになります。
また暖かくて清潔な家の中から寒くて不衛生な屋外へと、環境の突然の劣化にさらされることにもなるのです。
この「環境」の非情な変化が「経験」として猫の頭の中に残らないはずがありません。
【里親さんに理解してほしいこと】
猫の里親になった人が、「エサは毎日定時に与え、トイレも設置し、寒さや暑さが問題にならないようグッズも整えてあげたのに、いつまでたっても猫が神経質で警戒している。自分を飼い主として受け入れてくれない」と嘆いているのを聞いたことがあります。
これは里親になったあなたが原因ではないのです。
今までその猫が置かれた「環境」、そこでの「経験」、さらにその二つがリンクして出来上がったその猫独自の「習性」によるものなのです。
捨てられた猫は、突然の「環境」の変化で、それまでいつも食べていたエサを食べられなかったり、雨に濡れたり、寒さや暑さに苦しんだりという「経験」を強いられたため、自分の周囲に対して過剰なまでに神経質になるという「習性」が出来上がっています。
この習性は、おそらく猫が死ぬまで残るでしょう。
新しく飼い主になった里親さんが、自分に心を許して可愛らしく懐いてくれる猫を期待していたのに、もし猫があまりに神経質だったら、正直言って“歓迎できない”ように感じてしまうかもしれません。
そんなときは、その神経質の原因を想像してあげましょう。
「エサがない」「汚い」「寒い」「濡れている」ような環境に急に追い込まれ、怖い思いをしながらも、それでも何とか生き延びてきた猫なのです。
その猫が今、あなたのおかげで満足できる環境で暮らせているのです。
たとえ猫の行動や態度には距離を感じてしまうとしても、あなたは里親としての自分に誇りを持ってほしいと思います。
あなたの猫が、かつては地獄のような経験をしたとしても、今から死ぬ時まであなたのおかげで幸せな後半生を過ごすことができるわけですから、きっと猫もあなたに感謝するに違いありません。