中国の象牙取引禁止 日本も原因だった「ゾウ絶滅の危機」をめぐる歴史をもう一度学ぶ
中国が2017年の象牙取引の全面禁止を決定し、その確実な実行が期待されていますが、これは私たち日本人にとっても決して他人事ではありません。
バブル経済に向けて調子に乗っていた日本人が大量の象牙を購入したことで、ゾウの生息数を激減させてしまったことがあったからです。
【ある象牙商品店の話】
中国・ハルビンに住むリューさんは、かつて25人の職人を抱える象牙工房の主人でした。
象牙を買い取り、ペンダントや文鎮、彫像に加工したり、象牙そのものに彫刻を施した商品をお店の棚にずらりと並べていました。
売れ行きがよかった時代には数千ドルの値を付けた商品もあったそうです。
そして今、中国政府は合法のものをも含め象牙取引を全面禁止することになりました。
もちろんこれは、リューさんにとってはうれしいことではありません。
「象牙工芸は中国で何千年ものあいだ受け継がれてきた伝統なのです。それが今、私たちの世代で消え去ろうとしています」。
【ゾウ絶滅の危機は中国だけの責任?】
中国では象牙の工芸は数百年の歴史があります。
しかし一方で、中国の工芸の中では必ずしも主流として扱われていたわけではなく、世界の象牙取引に大きな影響を与えることもありませんでした。
19世紀から20世紀にかけて、ゾウの大量虐殺が行われたという事実があります。
しかしこれらはヨーロッパ列強諸国の植民地支配や北米のビジネスマンたちが原因で行われたものでした。
西欧諸国では飾り物、宝石、ピアノの鍵盤、ビリヤードの玉などにつかわれる目的で象牙が大量に購入されてきました。
その結果、アフリカゾウの生息数は1800年には2,000万頭だったものが、1960年には200万頭にまで激減したのです。
その後1970~80年代に驚異的な経済成長をみせた日本が象牙を大量に買いあさる時代が訪れます。
このころにはゾウ絶滅の危機が指摘され始めていました。
1989年、象牙取引が初めて規制され、生息数の大幅な減少は食い止められました。
しかし今度は日本に代わり中国が経済力を伸ばし始めていました。
中国では稼いだお金を象牙に換えて保管する、という独特な富の蓄積が行われていました。
また自らの裕福さを示す指標として、または他人への贈り物として、象牙が大きな意味を持つ文化だったのです。
それまでは芸術・工芸の一分野にすぎなかった象牙が、中国でひとつの産業として成立するようになり、数年後には世界の象牙需要の70%を中国市場が占めるようになりました。
西欧諸国、日本、中国といった「お得意さん」たちがお金の力に任せて象牙を買いあさった結果、ゾウの絶滅が国際問題になるまで減少してしまったのです。
現在、アフリカゾウの生息数は50万頭に満たないといわれています。
そして10年以内に野生で生息するゾウはいなくなる可能性があるのです。
【ゾウを絶滅させる「伝統工芸」?】
リューさんは、自分たちの世代が中国の伝統工芸を廃止してしまうことに罪悪感を感じている、といいます。
「罪人にさせられた気分です。数百年後の人たちは、私たちが伝統工芸を放棄してしまったことを非難するでしょう」。
今まで法律にのっとって商売を続けてきたリューさんにとっては、国際的な圧力で閉店に追い込まれることはまさに腑に落ちないことに違いありません。
また、伝統工芸を守ってきたという主張もあるのかもしれません。
「象牙は彫刻のためには最高の素材なのです。たとえコメ粒ほどの小ささの象牙だったとしても、そこに漢詩を彫り込むことだってできるんですよ」。
しかし現在売られている象牙品のほとんどは機械で加工された売るための商品であって、職人の手による芸術品とは別のものです。
さらにこの店では、ゾウの足を切り取ってつくった椅子まで売っているそうです。
(ゾウの足でつくったアンティークの一例。リューさんの店で売っている商品ではない。)
出典:542: LATE VICTORIAN ELEPHANT FOOT TAXIDERMY STOOL : Lot 542
野生動物を絶滅させてしまうようであれば、それは「伝統工芸」とはいえません。
その意味でリューさんの主張は誤っているでしょう。
彼らの生活の保障は中国政府によって検討されるべきかもしれませんが、取引禁止は危急の問題なのです。